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2011/12/09

なぜ柳宗悦は方向転換を行ったのか

Photo先日、横浜に来ていた「柳宗悦」展へ行ってきた。大学院生時代に、図書室にただ居れば良いという、書生風のアルバイトを駒場でやっていて、裏門から出てすぐに日本民芸館と柳の自宅があり、二度ほど訪れたことがあった。今から思えば、もっと観て探っておくべきだったと、ちょっと今になって後悔している。

今回の展覧会で注目したのは、なぜ新進気鋭の西洋美術評論家だった柳宗悦が、当時としては、異端であった「民芸」という方向を取らねばならなかったのか、という点である。芸術というものが、つねに存続の「危機」意識を持って展開されて来ていることは、いつの時代にも通じていて、それほど不思議ではないが、芸術の持つ「卓越性」の根本に民衆の在り方を盛り込むということはかなりの大冒険であり、矛盾を抱えることになることは明らかだった。

けれども、時代の方向としては、間違っていなかったと思われる。芸術の価値が、その後西洋ではPOPの方向に向かい、「無価値と無意味」を好んで芸術の内容にする方向に向かっていったことを考えれば(ボードリアールの受け売りだが)、方向は同じであっても、内容の違いを打ち出すことができたことにおいて、民芸運動は現代の一つの方向を示すことができたと言えるだろう。

展覧会の中の展示物には、数多くのみるべきものがあったが、中でも注目したのは、「京都の朝市」という生原稿であった。自分で版木を持っていて、原稿用紙を木版で作ってしまうという、柳の趣味は素敵だが、さらにデザインはもっと素敵なのだったのだが、ここでそのことを言いたいのではない。

このエッセイの冒頭で、京都に住んだ若い時代に、その「周辺」をもっと知っておくべきだったと述べている。なぜ京都で工芸が発達したのかといえば、もちろん伝統の継承が行われたことが大きいが、それ以上に、周辺との関係を維持できたことは、もっと大きかったという意味であろう。生原稿は最初の1ページしか見ることができなかったので、そのあとは全集を探して、読んでみたい。

展示会の部屋に入って、最初に目に飛び込んでくるのが、朝鮮の壺である。先日この欄でも紹介した浅川伯教・巧兄弟のうちの伯教が、ロダンを観せてもらったお礼に、柳に贈ったものと書かれていた。

薄ねずみ色のまだら模様に変色した白磁の肌に、うす水色で草花がふたつ前後に描かれている。控えめな色調であるにもかかわらず、こちらに伝わってくるものは物凄く強い。柳が朝鮮の焼き物に関わっていく端緒となった壺であるとされる。

芸術とは技術(アート)だ、という強い芸術家側の主張もあるが、見る側からすれば、観方によって変わるでしょう、ということになるだろう。名もない陶工の造ったものに、感動するということがあり得るのだ。エーコとカリエールの対談集『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』では、読書はフィルタリングだ、と言っているが、芸術にもそのような性質があるのだ。

それにしても、柳は身の周りに良いものを集めていたのだ。青磁の水差しもさることながら、黒田辰秋の制作した大作りの木製ペーパーナイフは、この時代にしか作られなかったであろうと、おそらく将来には言われることになるかもしれない。けれども、今でも毎日多くの郵便を受け取っている我が身にすれば、現代でも、このペーパーナイフは本当に欲しいと思わせる1品だった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。