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2011/11/21

富士屋ホテルはなぜレトロのままか

Photo_2どうしても、昔から見ておきたい建物があって、それは箱根の宮の下にある、明治期からたいへん有名な「富士屋ホテル」本館である。写真がよく雑誌に取り上げられるので、すっかりそれらの写真のイメージで頭の中は一杯だったのだが、実際はかなり違っていた。

Photo_3妻と旅に出かけると、良い意味で予想していなかったことがたびたび起こるのだ。今回も、行ってみるとイメージとは全く異なる建物が次から次へ現れたのだ。特に、文化というのは、周りとの調合だと言われるように、ぐるりとした周りが重要なのだ。周りとどのような歴史を作ってきたのかが見所なのだ。

Photo_8例えば、古い写真館が近くにある。これは、このような古い館というものには付きもので、角を回ってその直前のコーナーに、明治時代からの写真が飾られている、その写真館があるのだ。もちろん、ヘレンケラーや、ジョンレノンなどの写真も飾られていて、有名であるためには誇示することが必須だが、明治期の様子を伝えるものを、何も知らない人びとの見えるところに配置することが、周りとの関係で重要なのだ。

Photo_14また、箱根という場所柄から、老舗の組木細工店はここでは必須であるし、現代的な観点からは、女性好みのパン屋や、ケーキ屋、さらに甘味処のついた喫茶店は周辺ぐるりを有機的に構成する配置としては、必ず存在しなければならないものだと思われる。そして、それぞれが日常的な下界の世界を超越していることが必要で、ちょっとレトロ調でなければならないのは、もちろんだ。ここでは組木細工店が典型で、観光地のお土産品程度のものでは駄目で、売れなくともよいから、品が良く、多くの人々を惹きつけるような仕組みが必要なのである。

Photo_11けれども、中心にあるのは、ホテルそのものでこの本体がかしいでいるととんでもないことになってしまうのだが。ここの建物はそれ自体で、ホテルの本質を表している。それはここにきて見ないとわからないのだが、何がここでわかるのかといえば、明治期の変動そのものが保存されている点だ。このことは、たぶん明治期の人々であれば、身に迫ってきたことで、よくわかることなのだが、つまりは、西洋文化と日本文化のすり合わせ問題が起こったということだ。

Photo_9現代人がこの建物を見た時の第一印象は、それほど良いとは言えないだろう。たとえば、ちょっと目にはやはり「キッチュ」ということになるだろう。つまり、現代人がこの建物を建てたら、そのような評価になるかもしれない。けれども、問題は明治人問題である。彼らが西洋風のホテルをこのような山の中に建てるという必要性が起こった時に、どのような反応をせざるを得なかったのか、ということは想像できることである。

問題は、結果として、どのような事態が生じたのかということである。おそらく、当時、富士屋ホテルは商業的には成功したのだと思われる。また、現代において、類稀な建築物として残っていて、これだけの人びとを呼んでいるのだから、現代においても成功しているのだといえるだろう。けれども、この成功は、決して偶然の産物でもない。人びとがこのような自体を望んで行ったことだから、文化そのものと言えるだろう。

もし良い点をあげるとすれば、中心とぐるり周りとの調和の良い点をあげることはできるだろうが、それ以上に、生き残ってきていること自体を指摘していておきたい。100年も生き残った建物は、それ程多くはない。これは凄いことだ。

欠点は多いと思う。見せびらかしで、高価過ぎるし、見栄の固まりでしかない。観光客目当てが見え見えで、高級な客は見るだけで、大衆のバスツアーがもっとも金をおとしているに過ぎないのではないか、と思われる。自分のことは、一応、勘定にいれずに、言うならば。

さて、ようやく結論に到達できたのだが、じつはこの江戸期の様式を残した、西洋様式と容易に融合出来なかった、言ってみれば不器用な、そしてもしかしたら、不調和な状態が、じつはこの建物を存続させてきた原因ではないかと思われるのだ。もしこれがお雇い外国人が建てた近代風ホテルだったならば、とうに飽きられてしまっていて、これほどの時代耐久的な作用を持たなかったのではないか、と考えた次第である。

Photo_16さて、場所は飛んで、箱根から小田急線に乗って、途中地下鉄に乗り換え、至った場所は神田神保町のTという喫茶店である。娘が学士会館で行われるコンサートの切符を渡してくれるというので、勇んで東京に戻った次第である。Photo_17東日本大震災の募金活動の一環で、演奏はベルリン・フィルの弦楽団、演奏曲は弦楽五重奏曲で、それぞれモーツァルトとブラームスのものだった。とくにアンコールで再度演奏してくれたブラームスの第2楽章は、今日一日の変化の激しい私生活を、静穏のもとに戻してくれるに十分の、感情の揺さぶりとそして最後には、安寧を授けてくれるものだった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。