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2011/11/28

読書室の啓示が降りてきた

現代においても、突然のように、啓示が降りてくるなどということが、ほんとうにあるのだろうか。ニーチェが湖のほとりである種の啓示を受けたことはたいへん有名な話だが、私たち現代人にもそのようなことがあり得るのだろうか。

Photo_18今日、京都駅から歩きはじめて、偶然に「読書室」いう空間が、目の前に現れた時には、正直言ってびっくりした。江戸時代に、「五条油小路西入る」という場所に、人びとが集まり、読書空間を共有したことがあったらしい。写真は、その場所である。実際には、幕末期の禁門の変で、建物自体は焼けてしまったらしいが、この場所というものが重要である。ほんの10メートル四方のこの空間が、これらの観念の生産に力を与え、実際には、多くの書物に乗って、世に出て行ったらしい。

Photo_20山本亡洋という京都本草学派の学者がいて、実際に数十回に渡った研究会を維持したところが、ここであったと、ものの本に書かれている。じつは、油小路という場所は懐かしいところでもある。私たちの世代は、東京大学が紛争で入試を中止したことがあって、わたしの旧友のS君が京都大学に来ていて、たびたび下宿に厄介になった。その下宿がずっと上がって行った方ではあるが、やはり油小路だったのだ。

Photo_21さらにじつは、来年のことを言うと、ほんとうに実現するのか、疑わしいと言われてしまいそうであるが、4月から東京では、放送大学の世田谷学習センターが新たに渋谷へ移転することになっている。それに合わせて、すこし今までの面接授業と異なるような試みを行って見ることになった。

これはわたしの場合だが、じつはこれも偶然なのだが、東京文京学習センターで、読書会を行う企画が別に進んでいたのだ。それを渋谷へ転換した次第である。場所はたいへん重要で、ちょっとイメージが変わったかもしれないが、青春時代から渋谷に住んだ経験もあるからして、十分にこちらの意図が貫かれた企画となりそうだという予感がある。また、スタッフも充実することを認めていただいて、当初よりも期待できる内容となりそうである。

渋谷において、京都の「読書室」というものを受け継ぐことができれば、たいへんいいな、と思っている。その時に、山本が志向したように、単なる読書ではなく、読書空間で何が生まれ、何をやり取りでき、さらに、蓄積することができるか、というところまで行ってみたいと考えている。時間はかなりかかるかもしれないが、江戸時代から受け継いだ、という今日のご託宣があれば、鬼に金棒の気分だ。京都での200年以上前の試みを、現代に復活させ、さらに現代版「読書室」を特徴あるものにしたいと考えている。渋谷という、ちょっと変わった場所が与えられたのも、何かの縁かもしれない。京都のサロン文化に敬意を表しつつ、新たな渋谷のサロン文化を作り出す心意気で、当初は臨みたい。

Photo_22夕方になって、K氏と会う約束をしている、いつものMへ出かける。まだ、時間が早かったので、人もまばらで、しばし黙考する時間を得る。クリスマスの飾り付けが眩しい中庭の、いつもの席を占め、ストーブがそろそろ入るかな、という季節感を楽しむ。

白ワインは安い割には、柑橘系の香りがして、すっきりした飲みごこちだった。じつは今年は、わたしのゼミで「世代間倫理」を取り上げている学生がいて、その話内容などを話題にしながら、時を過ごす。その考え方を普及させたH.ヨナスは、ハンナ・アレントなどと「友人」関係にあり、K氏の関心領域に関わっているので、ぜひ話を聞きたかったのだ。Photo_24日本の論者たちの間にも、世代間倫理という考え方が、普遍主義的な倫理観のなのか、相互主義的な倫理観のなのか、という論争が存在するらしい。たいへん面白いところだ。ヨナスの個人生活についても、スキャンダル調の話が伝わっていて、興味は尽きない。さらには、いくつかの興味深い点に話が及んで、次第に夜が更けて行くのが気にならなかった。

最後は、いつものように、スープソーサーよりもたっぷりとした、もっと大きなコーヒー茶碗にアメリカンをいれてもらって、一日を終えることにした。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。