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2011/10/14

映画「アリス・クリードの失踪」

三人しか登場しない映画である。これだけでも、「映画的」映画として、観る価値がある。けれども、役者さんたちをみていると、何となく舞台演劇だったのかな、と思ってしまうところもあるのだが、その辺はあまり気にしないでおこう。

映画「アリス・クリードの失踪」を観る。先月ごろ、千葉劇場にかかっていたのを見逃してしまったのだ。それで、地元の名画座「ジャック&ベティ」でかかっているというので、買い物などを自制して、講義のあと、さっそく駆け付けた次第である。

途中、黄金町駅近くで、学生時代から気になっていた建物があって寄る。ちょうど電車の高架からその仕事場が見えるのだ。窓が異様に広い、というのが気になっていた理由なのだ。いつもその窓が空け放たれていて、中で職人たちが動いているのが分かる。大きなテーブルと衣類の山の間を職人たちが巡っていたのだけれども、何の仕事場なのかは、ずっとわからなかった。

ちょうど映画が始まるまで、時間が空いたので、尋ねて見た。どうやら、現在は持ち主の事業が不振で、この仕事場は使われていないらしい。と隣の宝石屋さんが教えてくださった。衣類の仕上げを行っていた仕事場らしい。大勢の人びとがここに結集され、そして、去って行ったと思うと、何となく愛おしいような気分になってしまうのだった。このような減価償却の終わって、再利用を待っている建物が何となく好きなのだ。この黄金町には、そのような再生プロジェクトが起っているので、この建物もぜひ加えていただきたいと、勝手に思ったところなのだ。

さて、映画のほうだが、三人しか出ないからと言って、話が単純なわけではけっしてない。ヴィックとダニーという二人の男性の誘拐犯が、金持ちの娘で勘当されているアリスを誘拐する。ここから、すべてが始まる。次第に、三人にはそれぞれ関係がある、あるいはできることがわかってくることになる。

最初は、それぞれ別々の人格であり、強いて言えば、犯罪関係で強制的に結ばれた人間関係として、映画は始まる。ところが、次第にそれぞれの人間関係がわかってくる。AとBは愛人関係であり、BとCも「愛人」関係にある。AとCだけが他人関係にあり、開かれた関係にある。さて、Bはどうするのか。

けれども、ここに誘拐という犯罪と、金という利害意識が絡むことで、人間関係、信頼関係が微妙におかしくなっていく。最後は、開かれていたAとCとの関係が閉じられて、めでたく物語は終結するのであるが、その中身はここで言ってしまうと面白くないので、明かすことはしないが、一つだけとりあげるとすれば、やはりこれだろう。

愛情という人間の関係性には、一つの愛の中でも、いろいろのバリエーションが可能だということだ。その結果、愛が理由となって、犯罪が起こることもあり、愛が理由となって、犯罪を糾弾することも出来るのだ。したがって、愛の物語であっても、内容はたいへん複雑である。愛の物語の中で、信頼関係の物語が育ち、さらにいつ裏切られるのかわからない、不信の物語が幕を開けることになるのだ。ふつう、物語は外部へ外部へ、夢のまた夢へ展開して、わたしたちの欲望を満足させるのだが、この物語は三人に限ったことで、内部へ内部へ展開していき、内部の世界の奥深さ、空虚な広さをかえって明らかにしていると思われる。

最初に、三人だけの世界を作り出す、映画的手法が面白かった。まず、二人が登場して何を行うのかというと、スーパーへ行って、部屋を外界から遮断する防音材、壁材を買ってくるのだ。これでもか、これでもか、というほど、三人だけの世界を強調してから、物語が始まる所が映画的だな、と感心してしまった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。