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2011/09/04

ゴーストのゴーストと現実世界

Photo_4世の中を、現実の世界と、ゴーストの世界とに分けて観てみる、という考え方には、二元論を安易に受け入れてしまっているという批判もあるが、意外に、現実を説明していて好きだ。ゴーストが荒唐無稽な幽霊であると、ちょっといただけないのだが、ケストラーの「機械の中の幽霊」のように、ゴーストと呼んでおくと、とりあえず現実との対比のなかで、あいまいでも、現代的なとでもいうような要素がはっきりしてくるのを面白がっている、あるいは、そのような雰囲気が維持されても、おかしくないような錯覚を楽しんでいるというところがあるのだ。

今回の面白いと思ったゴーストは、R.ポランスキー監督「ゴーストライター」に出てくるゴースト現象である。一時、この映画の宣伝がすごく頻繁に行われていて、大々的な公開になるのかもしれない、と思わせていたのだが、急速に宣伝は収束して、今回も少しの映画館でひっそりと封切られただけだった。

Photo_5ユアン・マクレガー演じるゴーストライターが、元英国首相ラングの伝記を引き受けることになって、米国の孤島にある別荘(この辺の景色が映画的だ)へ赴く。ここで前任者のことを調べるうちに、サスペンス状態に陥っていく。何が本物で、何がゴーストなのか、それは普遍的な問題だ。

映画自身は、サスペンス物語で、罪のない荒唐無稽な陰謀説史観の物語である。だから、ストーリーの筋を云々しても始まらない。現代のゴーストがどのようにして生まれ、どのようにして消えて行くのかが焦点である。

英国のB首相をモデルにしたような政治家を1人登場させている。彼のゴーストライターが、ユアン・マクレガー演じる映画の主人公である。念のいったことに、このゴーストライター君には、映画の中で、固有名詞が付けられていないし、最後に、彼が存在しなくても、現実の世界にはなんの変化も生じないようになっているのだ。その意味でも、ゴーストであり、現代人すべてに共通する人物像である、と作者は皮肉っているのではないかと思われる。

Photo_6世の中で、専門家が一人増えれば、ゴーストがふたりずつ増えていく。これが現代社会の本質的なあり様である。そこをうまく突いていると思われる。ゴースト問題の楽しいところは、ここに問題点が集中するからである。

内容に立ち入らずに、何が面白かったのかといえば、ゴーストライターがゴーストであることは、納得できるが、ゴーストライターの依頼主自体が、結局のところ、ゴーストでしかなかったという落ちになっている。英国人特有のユーモアだなあと思う。けれども、こう言って笑える人はどの位いるのだろうか。むしろ、現代人ならば、身につまされてしまう人のほうが多いのではないかと、わたしを含めて思ってしまうしだいである。

そういえば、主人公が場末のホテルへ泊まらなければならなくなって、カウンターの人とユーモア話になって、英国人ですね、と言われる場面がある。米国人と英国人の区別として、ユーモアがあるかないか、という基準のあることがよくわかる場面だった。

この映画のようなCIA陰謀説は、とりあえず置くとしても、なぜ当時、B首相は米国のB大統領のイラク侵攻に賛成したのだろうか。保守の共和党と、革新の労働党では、重要事項であればあるほど、意見が合うはずはない。ここに、この映画のように、サスペンスの入る余地があったし、これからも様々な物語が語られていくことになるだろう。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。