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2011/09/15

映画「うさぎドロップ」のドロップとは何か

「うさぎドロップ」という名前がどこから出てきたのか、それが知りたくて映画を観た。最初から細部にこだわって注意して観た。もちろん、うさぎは出てきた。主人公の一人であるりんは「うさぎ」が好きで、ぬいぐるみもうさぎだ。原作が漫画であるところからだと思われるが、イラストはたくさん出てきて、いたるところで、うさぎがオンパレードである。

ところが、ドロップは最後まで出てこなかった。原作には出ているであろうことは、推測できる。映画でも、最後の最後まで座っていると、dropという文字が一箇所だけ出てくるのだ。けれども、けっきょく、うさぎとドロップを結びつけるものは、映画には、一切出てこなかった。だから、今でもわたしのなかでは、この題名は謎のまま残されている。

映画「うさぎドロップ」では、とりあえず、題名は関係ない。そのまま観ても、問題ないと思われる。この物語は、一人のおじいさんが死ぬところから始まる。このおじいさんには子供がたくさんいるのだが、その上に、隠し子として6歳の女の子が残される。そこで、この子を誰が面倒をみるかということになり、もう一人の主人公であるダイキチが名乗りを上げる。そこから、代理性を主題とした物語がスタートする。

「所詮、代わりじゃん」という人物が出てきて、代理性という世間一般の観念を批判しようという、意図はかなりはっきりしている。一般の受け取りとは異なるかもしれないが、この映画は、そうゆう意味では相当観念的な映画である。

ところが、この観念の匂いを消そうとすると、かなりの感情移入を覚悟しなければならない。そこで演技過剰になってしまっている。不必要な感情表出を入れすぎたのではないか。たとえば、子供がふたりで墓のまえで、大声で泣くという状況はあまり考えられない。映画とはいえ、それはやりすぎだろう。

という風に、最初に批判しておけば、あとはかなり良好な映画だと思う。現代社会の、代理状況を良く描いている。本物の親子より、擬似的な親子のほうがリアリティがある、という状況は、今日の社会では、かなり現実感がある。

最初が肝心である。人間関係は出逢いによって、始まるから、このときになんらかの同意の存在が必要となってくるだろう。この物語の出逢いは、一人の死ということであるが、それが通常は、近づけるだけの必然性が必要となるのであるが、それがここではかなり希薄であるのだ。これは意図したものであるというところが現代的だということだろう。

代理性の必要条件は、親しく近しい関係よりも、すこし他人的であり疎遠な関係のほうが、成立し易いという特性を持っているという点にある。このような認識は、現代において出てきた関係であって、すこしまえまでは、このような描き方は行わなかったのではないかと思われる。

過剰が良い方向で出ているシーンもあって、りんを引き受けたのち、行き詰まったときに、女性雑誌のヒロインと踊る場面を夢想するシーンがあって、これはかなり映画的で飛んでいる。このような場面の転回がこの映画には必要であって、連続性を強調する泣きの場面は、全くいただけない。

この映画でどこがよかったのか、と聞かれたならば、それは映画の冒頭だ、と答えるだろう。主人公のふたりが並んで歩いていて、女の子を抱っこする。なぜ良いかと言えば、それは女の子を育てたことがあって、ふたりだけでどこか彷徨する経験を持った人であれば、この良さはすぐわかることである。

冒頭の疑問点に戻りたい。「うさぎドロップ」は想像力を刺激する。これまでは、これが一体のものと考えたから、考えが詰まってしまったのではないか。原作を読まなかったものの特権として、いろいろのことを想像して見ることができる。

たとえば、うさぎの形をしたドロップでは、うさぎの形が重要なのか、それとも、ドロップの甘さが重要なのか、と考えることも可能だろう。

あるいは、うさぎという比喩と、ドロップという比喩が別物であると考えたら、どうなるだろうか。あるときに、うさぎとドロップが出会って、もともと結びつくはずのないもの同士であったはずなのだが、うさぎの形がドロップの甘さを支え、ドロップがうさぎを支える関係が、この物語で成立したことを言いたいのかもしれない。

誰がうさぎで、誰がドロップなのかは、観てのお楽しみなのだ。

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コメント

こんにちは。
僕もタイトルの意味が気になってここにたどりつきました。

「うさぎドロップ」のロップはロップイヤーのロップではないかという考えにいたったんですが、ちょっとぶっとんでますかね?

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。