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2011/07/18

「くろがね」と謄写版

Photo_6桜木町駅前で、映画を観た。今回は場所が問題で、同じ映画でも、桜木町で観たことで、感情の揺さぶりが30度くらい違ったであろう。この映画のなかのシーンと同じに、桜木町駅前から海岸通りを抜けて、山下公園に入り、ニューグランドホテルの並木道をすぎるというコースを辿りたかったぐらいだ。

Photo_5映画「コクリコ坂から」の基調は、昭和30年代の横浜である。この雰囲気は十分出ていたと思う。たぶん、道路の混み具合は、このとおりで、1964年のオリンピックまでは高速道路がなかったので、海岸ベリの道路はとくに混んでいたと思う。また、昨日合宿の指導で参加してくださった島根大学のI先生が北京から帰ってきたところだとおっしゃって、北京のスモッグの酷さを報告された。それは、まさにこの映画のはじめに、ブオっとトラックから吐き出される排気ガスの黒さに、つまりは日本の昭和30年代の排気ガス模様と似ていた。

130年代と変わらぬこともある。前にも書いたことだが、横浜に住んでいて良かったと思えるのは、霧笛の音である。朝、これが遠くから聞こえてくると、すっと爽やかな元気が蘇るような気がしたものだ。この映画のように眼下の海岸を船が行き交うのを観ていても、また、少し内陸部で音だけを聞いて想像力を逞しくすることも同等に横浜的であるのだ。

Photo_7このときの横浜の海岸を洗ってきた風は特別なのだ。映画がすこし淡白に見えるのも、土地柄を表わしてる。物事にこだわらない、右から左へ交差させて行くことを好む横浜気質というものの性質を表しているのだと思える。そこで、この映画で描かれているように、バンカラや古いモノを大事にするということが横浜においてあり得たかどうかは、おそらくフィクションなのだ。横浜のこれまでのイメージは、常に新しいモノを好み導入することに秀でた性質があるからだと言えよう。けれども、これを契機にして、横浜の古さを見直すきっかけになれば良いと思われる。現実に、先日紹介した様に、素敵な洋館は多数保存されているし、ボランティアはたくさん揃っているのだし。

たぶん、細かいところにこだわっていることが、この映画を長生きさせるもとになるのではないかと思われる。最後に丘の上の家から、港近くまで坂道を一気に下る「オート三輪車」は、「くろがね」というプレートがかかっていて、懐かしかった。オート三輪の三社があって、ほかのダイハツやマツダは残ったが、くろがねはブランド名としては残っていない。そのためだろうか。博物館でもあまり見ることはないようだ。オートバイから自動車への連続的進化の途中がよくわかる現物であり、ときどきは思いだす価値のあるものだと思われる。

もうひとつ懐かしかったのは、謄写版とガリ切り板である。新聞部の必需品であった。ふつう学校の放課後に、ヤスリ板でガリガリと、なんと言ったものでしょうかすっかり名称を忘れてしまっているが、蝋紙に字を刻んでいくのだ。そして、時間が足りなくなると、ヤスリ部分だけ家に持って帰るのだ。このような細かい描写は、新聞部員でなくてはわからない。

自分のことを思い出すならば、最も多く謄写版を利用したのが、小学校5年生から6年生のときだった。図書館だよりを編集していた。当時、信州松本の源池小学校で、図書係は同時に機関紙も発行することになっていた。放課後には、職員室の入口に置いてあった、謄写版にかかりっきりになっていた。そのとき、片手刷りの技術を身につけたと思う。刷る時間は早かったけれども、インクを垂らす表面の絹面への負担が大きく、次第に破れ気味になったのを記憶している。全校生徒向けだったので、枚数が多かったのも負担になったと思われる。

Photo_8映画の中で、部室に一台謄写版が置いてあるのは恵まれている。でも、高校生ならばありえたのだろうか。今ならパソコンとプリンター、そしてコピー機というところだ。Photo_9
Photo_10帰りは、やはり桜木町から野毛へ出た。いつものDでギネスを飲みながら、横浜とはという想いをめぐらせた。


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コメント

謄写版のガリ版に鉄筆、懐かしい言葉です。

くろがね、三輪トラック、太いタイヤの運搬車

今 その当時の文献に取り組んでいます。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。