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2011/06/13

映画を観る必要性

「社会の中の芸術」という授業科目を制作したことで、映画を観ることの教育研究上の必要性が格段に高まったといえる。経済学という立場で、絵画を見たり、音楽を聞いたりすることも、確かに研究の一部だと言えないこともないが、やはり、もし研究取材の理由として、コンサートへ行くなどということは、それがコジツケであっても、ちょっとした理由付けが必要になってくるかもしれない。

けれども、「社会の中の芸術」を制作していて、不断の研究の必要性があるから、といえば、この必要性はかなりの現実性を帯びて認められることになる、と自己正当化ができるのではないか。

今回は、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ監督の映画「幸せの経済学」を見ることが必要になった・・・。今日、新自由主義と共同体主義との文明論争が世界のあらゆるところで勃発している。この映画は、共同体主義の立場を鮮明にした点で、典型的な作りになっている映画だ。これほど典型的に、共同体主義を前面に出しているイデオロギッシュな映画は珍しい。

ヒマラヤの辺境の地「ラダック」に近代化の波が押し寄せる。彼らの楽園生活が一変し、消費文化は、自然との関わりを分断し、人びとの関係を断絶させる。彼らのローカルな地域生活や伝統文化の誇りもなくなった。そこで、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジは、グローバリゼーションの対極にあるローカリゼーションを提案する。地域の力を取り戻す絆を強めていくとする。

グローバリゼーションの欠点を批判して、ローカリゼーションを称揚するという手法が貫かれている。今日、共同体主義を称揚する場合の見処はどこにあるかといえば、中世以来の強い倫理で貫かれたローカリゼーションから、どの程度逃れることが出来、洗練された抵抗を繰り広げることができるか、という点にある。ローカリゼーションの欠陥を批判して、グローバリゼーションが出てきたわけだから、単にグローバリゼーションを批判して、ローカリゼーションを称揚するだけならば、どうだろうか。単なるこの繰り返しならば、昔の共同体主義に戻りなさいということになる。

もちろん、これはこれで立派な議論なのだが、もし近代的なローカリゼーションを主張するのであれば、現代版のローカリゼーションが出てくるということが必要となる。それで問題の現代版ローカリゼーションが成立する条件は、提示されているのだろうか。

強い倫理を持つということが、この映画の回答だと思われる。とすれば、中世世界の村落共同体的な、顔の見える強い絆によって、五人組的な管理システムを持つこととそれほど変わりないと思われる。

そこで今後の共同体主義がどのように変化して行くのかを考えてみた。共同体内部で完結できないのであれば、やはりなんらかの方法で、外にでていく必要性に迫られる可能性が高くなるだろう。その場合には、強い倫理は維持できなくなって、弱い倫理を採用する必要が出てきてしまうことになるのではないだろうか。

Photoこの映画は、30人ほどしか入らない「A」という映画館で上映されたのだが、近くには、例の喫茶店「マメヒコ」があって、時間を調整するのにちょうどよい。注文の多い喫茶店であるが、共同体主義に付き合うには、郷に入っては郷に従え、ということだろう。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。