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2011/04/25

生活のバランス感覚

今年度の春期は、W大で「現代人と職業」について講義することになっている。それで、今日はその学科に当たるところから、講師の懇親会に呼ばれた。W大の学生であれば、誰でも知っているTという西洋料理屋を貸しきって開かれた。わたしのように、いわゆる「除籍学生」だった者でもW大の街の風景のひとつとして、記憶されているところである。

懇親会では、若手の先生方とも話ができた。社会福祉系の先生方がたまたま近くには多くいらっしゃって、現場と理論のギャップの話が面白かった。

放送大学でかつて同僚だったO先生が呼んでくださったのだが、彼はわたしのブログの師匠であることは以前にも書いたことがある。それで、一日として欠かさずにブログを更新なさっているので、「崩れませんね」というと、「三角形のバランスを保つようにしているのです」とおっしゃる。仕事と家族と個人の時間バランスだということらしい。わたしの場合には、仕事に比重があって、三角形はもちろんあるのは意識しているのでときどき戻るのだが、通常はバランスを失している。ところで、どの程度まで、バランスを崩しても大丈夫なのだろうか。

話はすこし飛ぶが、「現代」的女優と呼ばれている吉高由里子主演の映画「婚前特急」では、この生活バランスの問題に挑戦していて、興味深い。今日的な問題では、長時間労働などを取りあげるところなのだが、この映画では「多役割」というところに切り込んでいる。どのくらい多くの人と恋愛の役割を共有できるかという問題である。

チエは「人生は限られているから、時間を有効に使わなきゃ」という近代的な思考をもった娘だ。いろんな男と付き合い人生を満喫したいという自分勝手で「嫌な」娘だ。5人の交際相手を友人の勧めで、「査定」するところからドラマが始まる。題名が出るまでの、テンポの良い5人の男紹介が前半を締めている。

映画の出だしも良い。ホームに若い男女二人が微妙な距離を保って立っている。お姉さん気分で付き合いたいというかわいい年下の男とのキスシーンが次に来る。この微妙な距離感と親密感との交差が全編にちりばめられている。愚痴を言いたい時は何でも聞いてくれる子持でバツイチの男、スペイン旅行に連れて行ってくれるという美容室オーナー、バイクに乗ってスカッとしたいときにはノーテンキなボンボン、風采は上がらないが気楽に付き合える工員の男。

この「多役割」性というテーマは、恋愛に限らなければ、現代人にとってかなり切実な問題となってきている。仕事であれば、5つくらいの役割を引き受けることがある。大学の先生も授業を9つくらいは当たり前で、行政的な委員会は表にあらわれないような小さな作業グループを含めれば、授業と同じ程度抱えていて、自分がどのような役割を担っているのか、わからなくなることがしばしばだ。

けれども、ことは恋愛である。このような恋愛でも「多役割」性は可能だろうか。人間関係でも、果たして「査定」は可能だろうか。映画の結末は、恋愛映画の王道を行っていて、「嫌味な」女がしだいに好ましい女に思えてくるし、理想的な男たちが魅力を失い、かえって一番魅力のなかった男が本命に育ってくるのだ。そして、ハッピーエンドが待っている。なんど繰り返されても普遍的な意味を持っていると思われる。

映画のメーキングインタビューをみていると、監督がいかに主演女優を「いらいら」させて、「多役割」性の本質を取りだそうとしていたかがわかる。この映画は、ドタバタ喜劇風を装っているが、じつは根の深い現代社会問題を盛り込んでいる。多役割性が、「いつも怒っていて、世界が自分の周りを動いていると錯覚し、上から物事を見ようとする」生活を生みだしてしまうというところをうまく描いていると思う。やはり、生活バランスは大切なのだ。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。