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2010/07/20

MASKS―仮の面

恒例の経済学分野、合同全体ゼミは無事終了した。みなさんから受けたコメントを考える材料として、修士論文の原稿に取り組んでいただきたいと思う。いままで一面的に考えてきたことが、今回のゼミで、すこし多面的になってくれれば、コメントしてしてくれた仲間の効果があったといえる。

さて、日中は35度を超える日々が続いている。仕事は続いているのだが、この暑さをすこし避けなければ、これからの真夏の峠を越すことはできない。などと理由をつけて、陽を避けて、千葉市美術展へ向かう。明日から、これまでサボっていた共同研究の作業を行わなければならない。とすると、今日の午前中しか空いていないのだ。駅に着くと、電車が待っていてくれ、駅を降りると美術館行きのバスが発車寸前だった。係のかたに確かめて、首尾よく乗りこむことができた。

「MASKS」展は、期待通り、凄い面がたくさん来ていた。面は、顔という実体を写したものであると同時に、それ自体実体として存在感を持っている。東北地方の竈面は迫力があった。角ばった粗削りの形象は、東北特有のデザインだと思われる。

とくに、今回凄いな、と思った面は、鎌倉時代の「翁面」だ。すでに完成している。笑いの面ということになっているが、素晴らしい面の特徴として、多面的な特徴を持っている。この面の笑いは突き抜けた笑いも、憂いのある笑いも両方含んでいる。人生の皺だけ、笑いにも皺が刻み込まれていて、どちらの面から観ても、同じ様相を呈することはない面だ。最古の翁面だということだが、個人蔵なのだ。今回の宣伝チラシに一切写真は載っていない。この展覧会が済めば、おそらくしばらくは陽をみることはないのだと思われる。

鎌倉時代には、周知のように、慶派をはじめとして、仏像の一時代が画された。たぶん、面作りでも同様の革新が起こったのだと推測される。このあと、能面として面が形式化されるまで、この作りは普遍性を持ったに違いない。

展覧会の最初から、観覧者をびっくりさせる工夫がされている。鬼面は古くから、二種類に分けられるというのだ。ひとつは、「阿」形で、眼が飛び出していて、口が大きく開かれている面だ。もうひとつは、「吽」形で、眼が向いて、口がギュッと一文字に閉められている面だ。

人間は、自分ともうひとつの人格を表わす時に、びっくりして大声を出すタイプの顔をするか、あるいは、耐えて落ち着こうとするタイプの顔をするか、ということなのだろう。昔、レヴィ=ストロースの「仮面の道」という面白い本を読んでいて、やはり面が二種類に分かれるという話が載っていて、意味は異なるけれども、同様の分岐は生ずることがあるかもしれないとすこし思った。

これら以外にも、人間の内面を表わす「蛇面」や、個人は押し殺すが結社を表わす面「キフェベ」、さらには、顔の中にさらに人間が描きこまれている、「精霊の仮面」など興味は尽きない面々だ。もっともリアルだったのは、面が人間の命の代替物として使われたとする「ナイジェリアの人頭の頭上面」だった。いかにも、戦場で討ち取られた「生首」の代わりとして、作られたという雰囲気を持っていた。

いずれの面も、慎ましやかな雰囲気を持ったものだった。そもそも、顔の表情で一つだけを強調して、面が作られたのだろうと想像される。けれども、面がひとり歩きするようになって、存在を主張するようになるにしたがって、面はむしろ逆に多面的になっていったような気がする。今回きた面は、隠れているものをすべて外にさらけ出すのではなく、むしろ隠しつつ表わし、現しつつ隠しているのだ。このようなことが定着できる面は、やはり限られているのだ。

人間の顔がこのような耐久性を持っているとは到底考えられない。この普遍的な表情を保つことができるのは、面というものの特権だと思われる。並びにある、いつものコーヒー屋さんで、ペルー産の豆を買って、いつもの喫茶店でトマトベースのロールキャベツ定食を食べ、ようやく幕張へ向かった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。