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2010/06/26

感動という経験

Photo 今月は、岐阜学習センターで面接授業だ。これまでの秋田、新潟でかけてきた芸術文化に社会経済的にアプローチするという、新たな試みの第3回である。二回の経験が蓄積されて、授業の運びがスムーズになってきたと思う。

いずれも放送授業とは、ちょっと異なる視点から接近することにしていたので、その工夫が実ってきたという感じである。そのひとつは、以前にも書いたように、学生の経験を語ってもらうことがスタートしようという趣向だ。これは、経験をたくさん持っている社会人大学だからこそできる授業形態だと思われるので、こんごも発展させていきたいと考えている。

今回も理論的なことに入る前に、まずは「これまでの人生の中で、どのような芸術文化的な感動を覚えたのか」という質問から入った。踊りを舞台で行なっている人、絵画教室に通って発表会に備えている人、交響楽を初めて聴いたときの幼児体験を述べる人などがいらっしゃる中で、今回これまでは現れなかったひとつの重要な傾向を語ってくれる方々がいた。

それは、「芸術文化の授業と聞いてやってきたが、自分の中では、これまでまったく興味ない分野で、ましてや、感動と呼べるようなことは一度もなかった。仕事が忙しかったこともあって、音楽会へもいかなかったし、展覧会へも一度も行ったこともない」という方々だ。中高年の男性に偏っているのだが、若い方の中にも、同じ傾向を述べる人がいた。

ちょっと足を掬われた思いだったが、考えてみれば、戦後の日本経済社会の推移からすれば、このような芸術文化への無指向性傾向が存在することは不思議なことではないだろう。このような傾向に対して、当然社会人相手に、説を唱える以上、芸術文化の普遍性について、何事か述べることができると思われる。

ひとつは、芸術文化の定義を広げること、つまり音楽・絵画・舞台などに限られずに、もっと広い日常活動として芸術文化を考えることが可能であるということ。もうひとつは、感動というから戸惑うのであるから、感性の在り方を捉えなおすことなど、例を交えながら説明してみたが、かれらは納得しただろうか。感動したことはない、という意見が複数の学生からできたのは、鮮烈であった。もちろん、一般の学生に聞いたのであれば、このような考えはもっと多いことだろうから、現代社会ではそれほど驚くことではないのかもしれない。

放送大学の授業で救われるのは、「感動したことはない」と発言したとしても、それは事実を言っているのであって、決して授業自体に参加しないことを宣言しているのではないという点である。もし一般の大学で、経験を聞こうと言って、感動経験がない、と学生が行ったならば、それで講義は進まなくなってしまうのではないかと思われるが、ところが放送大学では、なぜ自分の人生で感動がなかったのか、ということを授業の中で解答を見出そうとするのだ。その意味では、むしろ感動したことがない、と答えた学生ほど、熱心な授業態度を示す、というのも、きわめて放送大学的だな、と感じ入った次第である。

事務室で岐阜市内での食事処を聞く。これは正解であった。グルメの無料誌をいただいて、いくつか推薦を受けた。その中には、昨日岐阜に夜遅く着いて、雨の中でふらっと行きついた場末にあったピザ屋さんも入っていて、「あそこに一人で入ったのですか」と言われてしまった。そういえば、一人客はわたし一人だったし、ピザ屋さんにもかかわらず、飲み屋主体の店であったのだが。

今日は、素直に推薦に従って、ひとりでも座ることのできるカウンター形式のところ、和食ダイニングのHへ入る。酒は、秀吉で有名な清州のものを頼んだ。お造りと、それから夏にもかかわらず、注文の多いおでんを頼んだ。最近、旬のものに季節感はなく、たとえばこの季節に、大きな大根が人気のようだった。頭のなかで、今日の講義の反芻を行ない、明日の講義の組み立てをおもっていたら、すっかり酔ってしまったようだ。

Famousdoor 眠気覚ましに、ジャズ喫茶へ向かったが、すでに火が落ちていて、シャッターが閉まってしまっていた。雨の街を上気した身体をさましながら、散歩した。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。