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2010/05/11

老後に通うところ

高齢化社会の特集などで、老後にどこで時間を過ごすのか、ということがよく話題になる。わたしの職場でも定年になっていく先生方の間でたびたびこの話題がのぼっていた。

先生方の場合、うらやましいと思うのは、さまざまな「会」をすでに主宰したり、参加したりしていて、自発的な活動が現役時代から持続していて、改めて定年になったから新たに始めるというものではないことだ。だから、ふつうはこちらから聞くと差しさわりがあって、もう何回も訊かれて疲れた、と言われてしまうことになるのだが、意外に自発的に話してくださる先生も多い。

この職場の先生方には、多趣味な方がたが多く、定年になるのを待ち焦がれている。それで、一週間の予定がぎっしりで、仕事をしていたときよりも忙しい方々だ。問題はどこにあるのか、といえば、やはり場所なのだ。そこに行って、自分も楽しみ、なおかつ、その場も乱さないような場所を、定年後に見つけることはやはりたいへんらしい。

定年後に忙しい先生方は、定年になる前に、すでにそのようなところを確保している。意外に、図書館と答える先生方は、少ない。すでに仕事でたくさん読みすぎていて、定年後にはもう読みたくないと考えるのだろうか。

今月の文藝春秋には、図書館とは答えたくないが、結局は図書館だというエッセイを書いている方もいる。街中には、あまり長居できるような日常的な場所はそう多くない。やはり図書館は無難なところだろう。

でも、希望を言うならば、植草甚一の行きつけの喫茶店とか、ケインズのような友人宅のティーテラスとか、一日一回は寄っても苦にならない場所がいいな、と思う。

図書館に類するところで、希望を言うならば、アーカイブは必須になってくると思われる。文書館のようなアーカイブもよいが、やはり映像のアーカイブには、時々行きたくなる。けれども、現在のところ、かなりそういうところは限られている。

きょうは、荒れ狂う雨のなか、今年度制作のディレクターにお願いして、渋谷のNHK内にあるアーカイブへ入れてもらって、番組に使う映像資料を選んだ。1970年代から始まって、2000年代に至る膨大な映像を次々に選んでいった。ニュース映像の場合には、だいたい数分のものだが、選んだものは数百に上ってしまったので、もしこれらをすべてみるとしたら、1週間はかかってしまうだろう。それくらいの規模の映像をたちどころにみることができる施設が実際には存在するのだ。そのこと自体驚きなのだが、一般には公開されている部分はほんのわずかなのは残念である。

おそらく、あと10年もしたら、著作権法も多少緩んで、あるいは期限の切れるものも出てきて、映像アーカイブはひとつのブームになることは間違いないだろう。今回は、サッチャー政権、レーガン政権、中曽根政権、橋本政権、小泉政権・・・を渉猟したのだが、この並びをみれば、どのような映像を集めたかはおおよそ想像が付くであろう。面白い映像が出てきたら、また紹介することにしたい。

あっという間に、お昼になったので、同行したI先生とNディレクターとNHK近くにある、魚屋さんが経営する海鮮ランチの店へ入る。雨にもかかわらず満員で、大振りのトロやタイの刺身のたっぷり乗ったどんぶりを食べる。上に乗った具を掻き分けながら、ご飯をいただいた。蜆の味噌汁も薄味で美味しかった。

番組制作で、全体のトーンをどのように合わせていくのかは、じつはこのような会食やその後の喫茶店での語らいの中で、形成されていくのだと思っている。かなり、非公式的な作業が必要なのだ。語らいもたのしかったが、さらに、NHKに戻って、結局一日映像を収集した。でも、まだまだ飽き足りない。

老後の楽しみで、希望をさらに言うならば、やはりこのような映像アーカイブはぜひ加えたい。昔起こったことの記憶を確かめるというのは、読書でも可能だが、映像でもできたら楽しみは倍加する。結局、老後になって、自分は何者であったのかが疑問として残るが、それを確かめるには、ひとつには時代との関係を見てみたいと思うのは自然ではないかと思う。

今回の番組は、そういう意味では、授業・講義であるということはもちろん考慮しているが、それと並んで、自分の記憶を確かめる、という自分の老後の楽しみ実践という観点も追究してみたいと思っているところである。

自宅でアーカイブというのは、著作権をクリアできないとは思われるが、国立のアーカイブならば、特別の法律を作って、囲い込んで公開することが可能ではないだろうか。NHKと民放の社会的貢献をぜひ発揮していただきたいと夢想している今日この頃である。そうなったら、海鮮丼などと贅沢なことは言わないから、お弁当と珈琲マグを持って、日参したいな。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。