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2010/05/01

オーケストラ、あるいはコンサート

今日は、1日で映画の日である。ふつうは、混んでしまうので避けるのだが、パソコンで良い席が取れたので、午前中に映画「オーケストラ(原題:コンサート)」を、久しぶりにチネチッタへ見に行く。映画の基調としては、喜劇仕立てである。

この映画は、音楽がさまざまな解釈を許すように、同様にさまざまな考えを許容していて、その配合が面白い。中でももっとも興味深いのは、「究極のハーモニー」という今日ではかなり多様化してしまっていて得られない、けれどもまだまだ魅力的と思われる状態を、映画的に描いて、映像として定着させようとしているところにある。

バラバラの考えを一つに統合するということは、現実にはわたしたちの日常世界では頻繁に行われているものであるが、それを可視化、というべきか、映像化というべきか、という状態にまで持っていくには、かなりの努力が必要だ。それは、現代が多様化時代であるという時代のせいでもあるが、やはりそれにふさわしい場面を設定することが難しくなってきているということによる。

この映画の中心にあるアイディアは、オーケストラ、あるいは原題のように、コンサートを実現させるなかで、ハーモニーという現代においてはきわめて貴重なものを見せようとしたことにある。これは正統的な方法だと思われる。

わたしも授業でたっぷり使ったのだが、「オーケストラ」にはそもそも、集団効果を及ぼすという機能が含まれており、なぜバラバラだった全員が、ひとつの集団としてまとまるようになったのかを見せるには最適な題材であるといえる。講義のなかでは、交響楽団のなかでの団員と指揮者との交感を描いた。その細部にはなかなか近づくことができないが、面白い現象だと思っていた。

この映画のなかでは、最後のコンサートの場面で、それがうまく出ていた。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲がかかっていた。曲の冒頭でバラバラになって収集がつかない音を出していたのだが、途中で団員のなかに記憶がよみがえり始めると、ソリストのバイオリンの音を中心として、ほかの楽器の音が急に、奇跡的に、絡み合ってくるのだ。音の組合せだけでも、これほどの効果が出てしまうのだが、それに加えて、聴衆の反応などを加えることで、映画としては視覚化に成功していると思われる。曲の合間に挟み込まれた過去のエピソードの総括も、意外な効果を上げていたと思われる。見方を変えれば交響楽団もそうだが、多くの組織員を犠牲にして成り立っているといえる。それでも、音楽を続け、30年間を飛び越えて、最後やり遂げるために機会を狙っているというのは、なかなか感動的だった。

音楽というのは、好きだから続けると言われているが、好きにもいろいろな種類のあることが描かれていて魅力的だ。団員たちはそれぞれ異なる関心で、この楽団の試みに加わってきているというのが面白いと思う。「究極のハーモニー」は、団員の自発性や、団結性ということを含みながらも、最後まで突き進むのだ。そして、成し遂げられてはじめて、それが興味深いものであることを知るのだ。

それにしても、現代のロシアでは、このような楽団が瞬時に成立してしまう可能性を持っているということが、じつは改めて問題ではないだろうか。つまり、冷戦から冷戦以後にかけて、芸術家たちが失業して、ちょっと声をかけて集めれば、プロを上回る交響楽団が直ちに組織できるという状態なのだ。わたしたちは、ロシアのことだからと納得してしまうが、じつはこのことは日本をはじめとして、すべての先進諸国に共通することなのだ。

資本主義化されたのは、ロシアが初めてではなく、現在の資本主義国すべてが、刻一刻と資本主義されており、専門芸術家は呼べばセミプロをはじめとしてすぐ集まる状態は、すでにあらゆる先進諸国で常態化している。つまりは、どのように集結を図ることができるのかが問われているのだ。この映画では、この結集それ自体が重要となっているのだ。

このような見方は、わたしの見方であって、かなり偏向している。むしろ、芸術上の挫折がロシア共産党との葛藤とのなかで起こっていたことの時代を描くということが主眼であろう。けれども、これらの視点を上回って、オーケストラ効果の事例としては、秀逸な作品になっていると、わたしは思っている。お金を稼ぐこと以上のことを目指した経験のある方は、途中で泣けてくる。日ごろ感動から遠ざかっている、わたしのような老人の涙線確保にはお勧めの映画である。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。