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2010/03/27

感情と言葉

100327_103402 今日は冷たい雨の日を予想していたのだが、すっかり晴れた。陽が眩しい快晴だ。卒業式の開催場所が教育会館からベイホールへ、さらに現在のNHKホールへ変わってずいぶん経つ。ビルの谷間から覗く空が、こんなに青く目立つ年も珍しい。

今日の卒業式の最中、感情がいかに言葉となって送り出されていくのかに注目した。卒業式だからあたりまえかもしれないが、送り出すほうよりも、送り出されるほうの言葉に、感情が乗っているように思えた。

それで儀式だから、真面目な言葉が飛び交うことは仕方ないとしても、その中にきらっと経験が織り込まれるようなときに、感情が言葉を超えて迫ってくる。学生の答辞には、それが出ていて、あとの懇親会でも同じ体験を持った学生の方から、共感の声が聞こえた。経験に裏打ちされた言葉でなければ、空々しく聞こえてしまうことだろう。

100327_104401 毎年楽しみにしているのは、予想を上回る言葉であり、それに載せられた感情なのだが、これを上回るようなものでなければ、到底感動をよぶものとはならないだろう。

卒業式の楽曲演奏で、小椋佳さんが3曲歌った。放送大学のイメージソング「と・も・だ・ち」と「人間の贅沢、ひとつ」、それに加えて、卒業生へのメッセージとして、「流されはしなかった」である。

100327_132901 このなかで、人間が生きてきて、ほんとうに価値のあるものはなにか、と問いかけて、それは富でもなく名誉でもなく、酬いもなく見返りもないものだ、という詩を歌っていて、それが通常のときであれば、聞き流してしまうものでも、このような状況で聴くと、違って聞こえるから不思議である。

小椋さんご本人が、50歳過ぎてから大学へ戻った経験があり、知る喜び、解っていく喜びを知っているから歌えるのだと思う。また、奥さんがこの大学の卒業生であることも話していた。経験を得てから知るということがより深く、積み重なりとなって出てくることを知っているから、歌詞に反映できるのだと思った。

感情が言葉となってあらわれていると思ったのは、歌詞のなかで、「思えば学びは人間が味わえる最高の贅沢のひとつ」、という繰り返しのフレーズが出てきたところだ。適切な感情と、適切な言葉と、さらに適切な状況が重なったときに、心が動かされるのだと思う。前に座っていた、N先生が振り向いて、そう語っていたから、ほぼ共通の感情がこの場を支配していたことは間違いないだろう。

Photo おそらく、この場でなければ味わえない、瞬間だったのではないかと思う。このことは、場所を移して、卒業記念パーティでもあらわれた。偶然にも、会場移動のバスで、同窓会会長のMさんが隣の席に座った。埼玉学習センターの機関紙を取り出して、苦労話をしてくださった。わたしも神奈川学習センターの機関紙の編集を長年行った経験があるので、それはよくわかった。紙面の割付も自分で行っているそうだ。そのあとの千人を超える人びとを前にした会場での堂々としたMさんの挨拶は、常日頃の活動を言葉にしたものだと納得した。

修士論文を終えた学生も、卒業研究を終えた学生も、また授業を取ってくれた学生の方々も、積み重なりの記憶の中から、言葉を選んでくるので、パーティ会場でのおしゃべりも初めて会話するようには思えない。わたし一人だけがそうなのかと、周りを見回してしまったが、みんな初対面の人びとであるにもかかわらず、共通体験を基礎にしている分だけ、話しやすそうだ。

Photo_2 このように見ると、やはり大学というところは、良い意味で「特権的な」場所ではないかと思われる。働くことができることも特権だが、それと違った意味で、このような感情を載せた言葉を、駆使できる時間と、場所を持っていることは素晴らしいことなのに違いないだろう。卒業式と記念パーティをずっと眺めていて、そう感じた。

Photo_3 渋谷のコインロッカーに、荷物を預けてきたので、赤坂のパーティ会場から引き返した。飲んだワインを覚まそうと、百軒棚の喜楽で腹を満たし、クラシック喫茶ライオンで、ベートーベンのピアノ協奏曲を聴いて、家路につく。それで、今日最後のコーヒーは、煮出し珈琲的で濃厚な珈琲をいただくことになった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。