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2010/03/28

瀬戸内の「のどかさ」

Photo しまなみ海道のサイクリング事情を見に来ている。来年度は、総合科目で「規制緩和」を取り上げたいと考えている。制度設定と解除にまつわる事例を集めている。10年ほど前にも、大店法などの規制緩和を取材したことはあったが、近年タクシー規制緩和などに話題が集中していて、もうすこし興味深い「規制緩和」事例を採取したいと思っていた。

Photo_2 自転車は面白い題材だ。このしまなみ海道はサイクリングの聖地と言われていて、さまざまな試みが行われているらしい。この内容は、最終的に取り上げるか否かは決まっていないが、講義を見ていただくとして、なぜ尾道か、というところの背景が興味深いところである。

Photo_3 尾道の文化は、複合的である。それは、駅を降りて、周りをぐるっと見渡せば、いろいろな要素が目に飛び込んでくるところからもわかる。自然をみれば、山と海がすぐあり、町並みをみれば、モダンとレトロが混在しているのがわかる。Photo_7 駅前の広場から、海が見える。そして、向島が対岸にすぐ見える。ここを渡し船が行き交っている。交通の要所であることは、一目瞭然だ。ちょうど海を挟んだ向こう側にある「Mukaishima Dock」のデザインは、すぐ上の小さな白い灯台とマッチしてきれいだ。

Photo_5 尾道の複合性は、歴史的なものであったらしい。古くは、村上水軍の舞台であったということだが、島影から船が突然現れて、襲いかかってきたら、と考えると、船に乗っても古への想像力が膨らむ。さらに、江戸期の尾道商人は早くから株仲間を築いて、尾道への流通の結集を図っていたらしい。尾道大学のK先生の論文によると、北前船と瀬戸内海産物の商業によって繁栄し、さまざまな商業制度を発達させていたことが知られている。豪商たちの活躍の場だったらしい。おそらく、石見銀山も関係していたのではないだろうか。明治期になると、塩田などの特権を得て、繁栄を続けた、ということだ。その豊かさは、街の至るところに残っていて、街の人びとのなかにも、何かやれば、うまくいくだろうという成功と挫折を何度も経験してきた街の力を感じさせる。

Photo_6 取材をする場合には、このような背景が面白いのだ。実際のビデオは、40分くらいしか、映像は入れられないが、現地での取材はそれの何十倍もの経験が織り込まれる。観光ルートをまず歩いてみた。海から山への坂道を縫って、お寺が並んでいて、そのいたるところに文学者たちの言葉があふれている。

たとえば、江戸期には、十返舎一九がここを訪れて、尾道を次のように描いた。文学の小径コースに載っているのを拝借。

日のかげは青海原を照らしつつ
光る孔雀の尾の道の沖

「しまなみ」と呼ばれる瀬戸内海をよく描いている。山国育ちのわたしにとっては、歩くことの想像は察しがつくが、海を渡ることの想像はなかなかついていけない。備中の人だった緒方洪庵も訪れていて、

Photo_7 軒しげくたてる家
居よあしびきの
山のおのみち道せまきまで

Photo_8と詠んでいる。海から山へ迫った土地に、軒を連ねた家並みの様子がわかる。寺が多い様子を歌って、尾道らしさを切り取っているのは、正岡子規だ。しまなみ海道は彼の伊予に通じている。

のどかさや
小山つづきに塔二つ

Photo_9 のどかさ、なごやかさなどの、静かなる変化を予期させる「海と街との関係」がずっと続いていたのだ。途中、志賀直哉が借りていた六畳二間の長屋や、林芙美子の書斎が移築されている文学館に座って、海としまなみを眺める。大正時代の古い写真が展示されていて、ちょうど洋風が日本に染み込むPhoto その時代を捉えていた。江戸期初期から衰退に衰退を繰り返してきた尾道は、それでもまだまだ、たいへん豊かな街であったことが窺い知れる。街に改装されて残っている「商業会議所」の建物は近代の尾道商業における組織力を表している。

Photo_3 千光寺裏にある市立美術館で、ヤマタネ美術館の特集を組んでいて、小林古径の「兎」が相変わらずよかった。尾道出身の片山牧羊「きつね」の綿密Photo_4さには目を見張った。虹がかかって、美術館からの遠望は比べるべくもなかった。

最後は、商店街に戻って、P喫茶店にて、イエメンモカを1杯。 3階には、休日だけ出張してくるという木工屋さんがギャラリーを開いていて、雑貨や飲み物を提供している。マホガニー造りのガウディ風椅子を制作なさったということでに座らせてもらった。すわり心地は良く、尾道の「のどかさ」を感じた。

林芙美子が少女期を過ごして、ここから多くの題材をもらったことを知る。「海が見えた 海が見える」という海岸のホテルで宿泊。通り過ぎる船を飽きることなく眺めていた。サイクリングも良いけれど、船も良い。いずれも、現在では低生産性だけれども、復活させる価値があるものだと思う。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。