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2010/03/13

虎の守り

虎ノ門という場所は、わたしにとってたいへん験のいいところだ。もちろん、わたしが寅年生まれだという単純な理由もあるが、それだけではない。

虎ノ門という名前の由来はいろいろあるようだが、わたしは素直に方角の問題だと思っていて、この方向には何か面白いことが起こる予感がする。もちろん、江戸城(千代田城)の城門のひとつであり、それが地名として残ったことは間違いないないのだが、城門に虎を守り神とする風習があったということだろう。虎は日本にはいないのだから、中国伝来の言い伝えによるものと推測されるし、常識的な知識の持ち主ならば、けっして問題を持ち越すことなく、すぐに思い当たることになるはずだ。

もし方角をあらわすのであれば、有名な風水に出てくる「玄武・朱雀・白虎・青龍」の虎だと思いあたる。家を建てるときに、日本人は方角を見るのが好きだが、江戸城建築でも当然行われたであろう。その結果がこの虎ノ門に現れている。四神獣伝説によって、魔除けが行われ、とりわけ、西方に対しての配慮から、虎ノ門にはおそらく特別な配慮が行われ、意匠が施されていたことはまちがいないだろう。本物を見たいものだ。

現在では、石垣がすこし残されただけだが、この西の守りは相当重要な意味を持っていたものと思われる。この石垣のあるちょっと先のビルで、大学院生時代に長くアルバイトをしていて、この研究所が「余暇」を考えるというところだった。年度末には、近くのホテルに泊まりこむほど忙しくて、余暇どころではなかったけれども、いろいろな方から、「余暇とは何か」という話を聞くことができて、その後の考え方にかなりの影響を受けた。だから、わたしにとっては特別に、虎ノ門はビジネスの中心地というよりは、余暇の息吹があったところだという印象が残っている。

娘が生命を吹き込まれたのも、この地にある病院だった。タクシーで駆けつけて、廊下で待っていると、程なく遠くで泣き声が聞こえた。人生のなかでも、そう多くない種類の、感動を受けた。この瞬間を経験したのも、虎ノ門だからこそだったと思う。つい昨日のような気がするのだが、すでに20年以上が経ってしまった。

Photo_3 それで、今日から新たに、虎ノ門でゼミナールを催すことになった。月2回ほどのペースで、放送大学の東京連絡所で会議室を借りることができたのだ。文京にある学習センターが1年以上、建て替えのために遠くへ移転してしまった。新幹線で来る学生のためにも、東京駅近くの場所を確保する必要があったのだ。

昔、アルバイトをしていて、徹夜があけ、近くのうどん屋さんでかつおだしの効いた朝食を食べて土曜日の街に出ると、人がひとりも居なくて、虎ノ門のもうひとつの顔をみた。

Photo_4 また、このように土曜日の、人気のない街で、人気のないビルの一室で、しかし少人数の熱い議論を行うことができるのは、たいへん仕合せである。今日最後のコーヒーは、ウィークデイであれば、満員で入れない喫茶店で、桜のケーキと甘いキャラメル・マキャート。しばし学生の方々と雑談を楽しんで、家路についた。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。