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2010/01/02

贅沢について

展覧会の観初めに選んだのは、「ラグジュアリー Luxury」展(東京都現代美術館)である。じつは、今回制作した放送大学の講義「社会の中の芸術」では当初、贅沢をひとつの柱にして組み立てるつもりだった。けれども、消費社会論を以前書いているので、今回は新しいところに挑戦したいと思い、残念ながら落としていた観点である。この展覧会がもっと早く行われていたら、きっと贅沢論を含めて取材していたに違いない。

服飾にはあまり馴染みがないこともあって、はじめは贅沢の意味が単線的で、贅沢を扱っている割には、地味な展覧会だな、と思って観ていた。けれども、これはわたしの力不足がもたらした錯覚で、観ているうちに、伏線がいろいろ張ってあって、しだいに面白くなってくるタイプの展覧会だった。

キイワードは、「トレーン(train)」、引きすそである。列車や汽車にも連想が働くが、そうではなくもっと中世的な言葉なのだ。贅沢を「見せびらかしの消費」として解釈したのは、ここでもよく引用するT.ヴェブレンだが、彼は労働を免除されている階級を表す象徴として、贅沢を説明した。たとえば、女性のスカートやコルセットは、明らかに労働を行わないことを誇示する服装だ。このトレーンも同様に説明できる。スカートから引きすそをたらして、歩く姿は、明らかに労働には向いていない。

おそらく、このトレーンは宗教的な意味から始まって、キリスト教僧侶の袈裟あたりに由来するものと思われる。それで、袈裟が前垂れとなって、労働向けに使われるようになったのが、エプロンで、逆に、後ろへ回って、労働を妨げる道具となったのが、トレーンになったものではないだろうか。もっとも、この説はわたしの推断なのであまり信用してもらっても困るが。けれども、記号発生的には、同じものが片方は前に回って労働促進的なエプロンになり、他方は後ろに回って、労働免除的なトレーンになった、というのは合っていると思われる。

エリザベス朝のスカートに付属して、外部的に付けられた赤いトレーンが美しかった。トレーンの長さが身分を現わしていた、などということも、やはり見せびらかしの効果を狙ったものだ。

展覧会のパンフレットでは、ダビッドの描いたナポレオンの戴冠式で、ジョセフィーヌが身に着けていたトレーンに注目していたが、現代においても、結婚式ではウェディングドレスはほとんどが引きすそに造られていて、日常みることができる服飾である。

18世紀くらいまでは、長さを競っていたが、次第にスカートの中に取り入れられるようになって、スカートの裾それ自体が長くなる。裾の長いスカートが宮廷などで流行ることになる。そして最後には、恐竜の尻尾のように、退化が始まり短くなってきて、ついには消えていくことになる。18世紀の貴族趣味の絹ドレスにおけるトレーンが、洗練されていて美しかった。

と思いきや、なんとスカートの内部に、掬い取られる形で、存続していったらしい。つまり、内面的なトレーンがその後の服飾のなかに存在することになる。これから後は、展示提供者たちの心境を推測して思ったことだが、服飾のリボンや、レースや、さらには、襞や重ね着も、もしかしたらトレーンの変形かもしれない。あるいは、服飾がトレーンに反映され、さらにトレーンが服飾へ再投入されたのかもしれない。と新年の想像力は止まるところをしらない。

それは、最後の展示での、コム・デ・ギャルソンのデザインに顕われていた。異様に長い袖、ターバンのように巻きついたシャツ、幾重にも重ねられた襞の服、異なる服の複合された服など、過剰で豊かで多くのものを結び付けていく、「トレーン」を現代に蘇らせていた。

トレーンの進化論、という趣の筋のとおった伏線が見事な展覧会だった。トレーンという贅沢が、現代においても、ほんの身近に存在するのだ、ということを気づかせてくれたことで、今年は新年早々幸先がよいな、と思いつつ、つぎの目的地へ向かった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。