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2010/01/08

フリーの法則

朝起きると、昨夜飲んで宿舎に戻ったままの姿だった。そのまま寝入っていたのだ。それほど飲んだ記憶はないのだが、収録と旅の疲れのためか、思った以上に酔っていたらしい。

せっかく、長崎に来たのだからと、早起きしてこの宿舎の山側に展開している、唐人屋敷跡を散策する。江戸から明治にかけて、おそらくその後の横浜の中華街のような雰囲気で、商人であった唐人たちの街が発達した地域だ。

案内の地図は、屋敷群の周りの環境を見ることから勧めているので、それに従って、まずは住宅地に広がっている、狭い階段の入り組んだ路地裏を回って歩く。なるほど、こうゆうのが長崎らしさなのか、と頷ける町並みが続く。曲がりくねった階段道と、左右に連なる平屋の家々。近くの高校生や大学生が、坂道を登ってくるので、道を聞きながら、先を進んでいく。今は建物が立て込んでしまっているが、「遠見番跡」では遠く海のかなたが望めたのだろうか、と遠望のマネをする。「レンガ塀」が特徴の一角では、外国人が居住していたのかもしれないと想像する。

唐人屋敷跡には、土神堂や天后堂などの神様を祭る建物が、復建されているのだが、祭られているのは、道教の女神で、海の神とされている「媽祖」である。横浜にも近年立派な廟が再建された神様だ。伝説が過酷だ。媽祖が寝ていると夢を見る。父と兄が沖へ漁に出て戻らない。夢の中で、遭難した父を抱え、兄を口にくわえて救出する。けれども、母が媽祖を起こしたときに返事をしてしまい、口をあけたときに兄が海に投げ出され、父のみが助かる。という厳しい伝説だ。

お願い事をすると、家族の半分を失うような犠牲を強いられそうで、ちょっと怖い話だ。男性を海外へ出し女性を定着させてきた、という比喩だろうか。いずれにしても、母系制の伝統に基づく、伝説のように思える。けれども、この伝統が海外に移住した福建の人びとのなかに、コミュニティ意識として存在するらしい。

中国人の移民には、定着型と回遊型とが存在するらしいが、母系制は定着型にとって都合よかった伝統なのではないかと推論してみた。したがって、日本の中華街では、媽祖信仰が盛んに行われたのではないだろうか。

さて、身なりを整えて、出張本来の仕事に向かう。今回は、放送大学内部に大学間の単位互換を推進する企画連携委員会というのがあって、そこから派遣されたのだ。各委員が当番制で相手校を訪問しており、わたしは長崎大学ということになったしだいである。

2時間にも及んだ意見交換で、いろいろなことがわかって、たいへん勉強になった。当初は、単位互換での放送大学の役割は、語学などの教養科目を大量に引き受け、相手校の多くの学生を受け入れよう、という趣旨で行われ始めた。もちろん、放送という手段を持っている大学としては、これは得意な技で、大量に情報伝達ができるという特性を生かしたい、ということは自然な流れだ、と思われていた。

ところが、すでに数年が経ち、しだいに経験が蓄積されて、振り返ってみると、放送大学の取り柄はこのような大量散布方式だけではないことが次第にわかってきている。むしろ、少人数しか望めないような科目こそ、放送大学の取り柄であり、相手校ではこのような2, 3人規模の学生の取る科目を、互換科目にリクエストする傾向が見られるようになって来たのである。

どういうことなのか、ということだが、大勢を集める科目の場合には、相手校は自前の先生、あるいは非常勤の先生を準備したほうが、経費がかからないのだ。それに対して、20人以下の学生にしか需要のないような科目こそ、放送大学を利用する価値があるのだと、認識するように、ここがずいぶんと変わってきていることがわかってきたのだ。アマゾンやグーグルが取っている、いわゆるロングテール法則に則った傾向だ。つまり、一大学からは2,3人の受講者しかなくても、放送大学は全国の大学と互換しているので、すべての受講生を合計すれば数百のレベルになるのだ。

ちょっと道草を食うことになるのだが、ロングテール法則は、米国の『ワイアード』誌編集長クリス・アンダーソンが広めた認識だが、彼が広めているもうひとつの「フリー(無料)」という考え方についても、じつは放送大学は先取りしている。つまり、放送大学は当初からテレビ・ラジオ放送に関しては、誰でも無料で視聴できるようにしているのだ。つまり、無料市場と有料市場を組み合わせて採算を考える、いわゆるTwo-sidedモデルを取っている。

というように、長崎大学の担当者との討論のなかで、いろいろの知見が改めてわかってきて、たいへん有益な訪問となった。長崎大学と長崎学習センターの関係者の方々には、感謝申し上げるしだいである。帰りに、一緒に出張したKさんと長崎市内へ戻って、卓袱料理の店「吉宗」で大きな丼に盛られた「茶碗蒸し定食」を食べた。お正月気分を思い出しつつ、空港へ向かった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。