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2010/01/11

コンタクト・プリント

Photo 母の入院している病院に泊まり込んだので、起きて午前中に、病院内にあるコンビニでの果物の買い物や、喫茶店でのコーヒーに付き合う。病室の窓からは、近未来的な光景が広がる。母が盛んに幻想をしゃべるようになったのも、この風景も原因の一端ではないかと思う。

その後お世話になっている担当医師の方と看護師の方がたと、言葉を交わして、午後には東京都写真美術館へ向かう。「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン」展がすでに11月から行われているので、そろそろ空いた頃ではないかと思って出かけることにしたのだが、残念ながらまだまだ超満員であった。

今回の展覧会では、コンタクト・プリント(撮影フィルムのベタ焼き)を初公開しているということなのだ。それで、写真愛好家が押し寄せているのだと思っていたが、このコンタクト・プリント展示のまえはそれほど混んでおらず、じっくりみることが出来た。なぜコンタクト・プリントなのかといえば、それは写真表現の本質的な問題がここに表れているからだ。

よく写真は瞬間の芸術だといわれるが、結果だけでそう判断されているにすぎない。じっさい、俳句がそうであると同じように、制作の過程では、その瞬間にはたくさんの要素が盛り込まれて、一枚の写真が出来上がっているのだ。人為的に盛り込まれるというのではなく、無意識の内に重層化されているために、その何枚かをはがしてみることが難しいから、このことが認識されないのだと思われる。コンタクト・プリントの存在は、このことを明らかにしている。

コンタクト・プリントでは、ライカ・カメラの35枚の連続写真として映し出されているために、ベタ焼きのなかで、どの瞬間が選ばれたのかがわかるのだ。評論では、木村がトリミングを行わないことを盛んに強調していたが、だからといってまったく編集ということが行われていないというわけではない。連続写真のなかでの選択は立派な編集であり、昔聞いたことだが、木村には中間的な眼ということが存在することを示しているのだ。

たとえば、「板塀、秋田市追分」という写真では、古木が板塀のまえに根をむき出しで生えていて、郵便受けがふたつ並んでいる。これらの連続写真が残っていて、最後に選択されたのは、馬のお尻と尻尾がちょっと写真の端に覗いたものを選んでいる。板塀と古木だけで秋田らしくていいじゃないか、と思うのだが、やはりこの馬のお尻が入るだけで、もっと秋田らしさが出ているのだ。

ふたつ以上の世界が重層している構図が多いのが、木村の特徴だと思われる。早稲田大学のO先生もコメントしているので、二番煎じの感があるが、有名な写真「本郷森川町」のコンタクト・プリントでは、人物がまったく写っていない辻から始まって、ひとつの世界、ふたつの世界、三つの世界と重なっていく。そして、8枚の写真がすべて重なったような世界が突如として、そこに現れる。その1枚が結果として選らばれている。

昨夜看護師の方の巡回があって、念入りに母を監視する体制が組まれていたので、その一端を担うにも、覚悟と忍耐が必要であった。そのため、寝不足で帰りの電車ではすっかり寝込んでしまった。このような緊張を毎日行っている病院の方々のご苦労は、仕事とはいえ、相当に大変であることが改めてわかったしだいである。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。