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2009/12/11

内部告発者の二重性

福岡に卒業研究の審査で来ている。審査のあと、研究指導を担当していただいたY先生とケインズの話をしていたら、つい長くなって夕闇が迫ってきてしまった。

ずっと前に、G先生に連れてきていただいた、ふぐ尽くしの店を探して入ったが、模様替えされていて、以前の味は望めなかった。でも、久しぶりの味だったので、おいしかった。宿舎に一旦戻ってから、福岡の街に出る。相変わらず、中洲はにぎわっていて、眠ることを知らないところだ。川をいくつか越えて、キャナルシティにあるシネコンでM.デーモン主演の「Informant!」を観る。

インフォマントは、後になればなるほど余韻の残る、気になって仕方ない作品である。インフォマントとは、情報提供者のことである。一見したところ、俳優マット・デーモンを中心とした、どたばた喜劇のように見えてしまうが、じつは実話である。と期待を裏切るところから始まる。

リジンという旨味調味料商品が鍵を握っている。これを製造する会社の内部告発をめぐる事件を描いている。すごいと思われるところ(他のひとはすごいとは思わないだろうな)は、人格の形成物語になっているところである。ふつう、このような双極性障害(躁うつ病)の場合には、正常な状態から異常な状態が発症して、次第に人格の崩壊へと進んでいく。これが人格障害を描く常套手段だ。

それの裏をいく映画である。つまり、最初はインフォマント初心者だったのだが、次第にあか抜けた、というか、提供を受けるもの達を翻弄する情報提供者に育っていく。その過程が社会的には情報提供者に育っていくとみえて、じつは人格としては崩壊の過程であった、というたいへん興味深い物語だ。

双極性障害といっても、この映画の場合には、ほとんど躁病が強調されていた。実話であるという内容の作り話がすごいところだ。

それでは、どこから情報提供者の物語は始まったのかを、改めてみてみると、もちろん情報提供を受けるFBIが現れた時だといえるのだが、じつはどこから屈折したのかといえば、それは意外に「妻」からの助言に端を発していて、それは虚実の葛藤の生まれるところを示唆している。

つまり、情報提供者として、会社や社会に対して嘘をつくことは大したストレスではないのだ。ところが、妻に対してだけは、特別でここへのストレスが原因で、ひとつの双極性(二面性)が生まれたことがわかる。

主人公のウィテカーは、最初は会社の情報提供についてかなり消極的であった。それが途中からどんどん積極的になっていき、最後は自分でうその情報を造り出してまで、情報提供しないではいられなくなった。最後は、情報提供中毒と化してしまう。

原因はFBIにあるのか、本人にあるのかが問われる映画となっている。現代において、このような人間が成り立つのか、という問題提起が興味深いところだ。現実に影響あるという意味で、あとになればなるほど気になる映画だ。

問題は、やはり多機能性というテーマではないかと考えている。会社の役割と、情報提供者という役割との、二重生活を行わなければならなくなったときに、双極性障害(躁うつ病)が表れてしまうのだ。このことは、病気に至らないまでも、すべての現代人特有の病理現象であると思う。その意味では、この物語はサラリーマンにとって切実な映画なのだと思われる。

残念ながら、映画への批評は、かなり厳しかった。筋が複雑すぎるというのが大方の見方だが、障害を正直に描いたら、やはり複雑にならざるを得ないだろう。この複雑な性格の表れが面白いのだ。病気にとっては、切実なのだ。つまり、前提として、躁うつ病を描いた映画であることを批評諸氏は忘れてしまっているとしか言いようがない。

二重生活の表れがどのように出るのか、わたしにはたいへん興味深く、なるほどと思った映画である。とくに、妻の行動がわからない、という批評もあったが、病人に対する態度であると考えれば、納得がいくと思われる。映画の題材として、よくぞここまで練り上げた、と独断的だがわたしは評価したい。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。