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2009/11/10

「わたし出すわ」

午前中、来年度制作する授業番組の打ち合わせが、虎ノ門にある放送大学の東京連絡所で行われた。天気が良かったので、新橋から歩いた。

なぜ歩いたのかと言えば、最近この地区の再開発が激しくて、ちょっと見ないうちに二階建ての古い商店が、近代的な八階建てのビルに変わってしまうために、それを確かめるためなのだ。それにしても、そんなに事務所の需要があるのだろうかと要らぬ心配をしてしまうほどだ。

減価償却が終わった建物こそ、社会的には利益を生むと考えているものとしては、たいへん残念な傾向が現れ始めている。歩くことで、街の雰囲気を掴んで、記憶の中に蓄積していく。それで何があるというわけではないが、ちょっと会議が早く終わったりしたときに、記憶された喫茶店に入ったりするのだ。それには、風景は変わらないほうが良い。蔦の絡まる古いビルのままで良いのだが・・・。

打ち合わせのほうは、順調に進んだ。ふつう、このような会では、テレビ収録とテキスト編集についてのスケジュール打ち合わせに終始するのだが、先生方の思い入れが強いのだろうか、内容の議論にたびたび発展し始める。それほど、面白いテーマなのだ。5人の先生方が担当するが、それぞれの個性がぶつかり合う、ちょっと異色な授業科目になる予感がする。これまでの経験からして、沢山ぶつかり合うほうが、結果としてよい科目になるのだ。乞うご期待。

2 ほかの先生方は、本部幕張の会議に出席するために、急いで地下鉄へ向かうらしい。折角新橋まで出てきたので、このまま帰るのはもったいない、ということで、久しぶりに銀座の喫茶店「らんぶる」へ寄って、ブレンドを注文する。

Photo その後、(中学生の頃だったが)初めて銀座で映画をみた劇場、銀座テアトルシネマ(当時は、テアトル東京だった)へ向かう。テアトル東京が閉館するときにも、あの評判の悪かった映画「天国の門」をここで観た。

森田芳光監督の映画「わたし出すわ」に入る。主人公のマヤが東京から函館へ帰ってきて、高校時代の友人を訪ねる。ここで、この美しい魔法使いは、一人ひとりに資金援助を申し出る。さて、何に使うのか、その資金はどこから得たものなのか、謎が謎を呼んで、悪い魔法使いまで呼び寄せることになる、という現代版のグリム童話である。

解釈がそれぞれの人によって異なるであろう、と主演の小雪が言っているので、そのとおりかもしれないが、わたしにとっては、これまでのところ本年度最高の映画だと思っている。熟練たちが造った映画だな、という印象が残った。もっとも、この良さは十分に歳がいっていないとわからないかもしれない。

何が良かったのかといえば、幸福について「互酬」という手法で徹底して描いているところが、映画的で、現代的なのだ。AからBへというプレゼントが、BからAへ返されるのではなく、BからC、さらにCからDへ・・・Nへと伝わり、最後にまたAへ帰っていく仕組みが日常として幾重にも描かれている。

なかでも、大きな「互酬」として、友人たちへの善行であるプレゼントが、最終的な自分への返礼というプレゼントとして帰ってくるところが感動的だ。また、小さな「互酬」としては、友人たちとの付き合いが、さまざまな形で、返礼(時には負の返礼)として表れてくるのだ。(これらは観てのお楽しみ)さらに細かいことには、外国とのビデオ電話会話のやりとりも「互酬」的な雰囲気を持っているのだ。

儲けて、貯めて、そして惜しみなく、与える、という原則が冒頭のテーマで提示され、物語は始まっている。とことん、互酬を追求している。あまりに、多義的に描いたために、皆の解釈はそれぞれ異なることになっているが、結局はひとつのことを言っている、そういう映画だと思われる。「友愛」が世間では問題になっているが、このようなレベルならば、友愛関係も具体性を持つと思われる。

Photo_2 帰り道、いつものコーヒー豆屋さんへ寄って、コロンビアとパナマ産の豆を購入した。今日の最後の一杯は、穏やかな酸味が効いて、薄く煎れたホンジェラス(内乱が心配だが)だった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。