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2009/11/13

テレビの距離感

最近になって気になり出したのは、テレビ授業収録のときのカメラとの距離だ。スタジオに入って、しゃべる位置につく。だいたい、カメラは3メートル位のところにあるが、この3メートルというのが微妙なのだ。

つまり、3メートルより内側に入ってくると、顔がアップされてしまい、伝える言葉より本人の本体が勝ってしまうような気がする、そうかといって、3メートルより離れてしまうと、しゃべる本人ではなく、風景や背景が目立ってきてしまう。

つまり、テレビでものを言う場合には、3メートル原則がちょうどよいことになる。だから、通常の講義でも、講義室の中で教壇から、3メートル離れたらもうテレビ授業のほうが臨場感は勝っていると言ってよいだろう。

生講義だから、多少緩くしても、5メートル離れたら、講義室で行う意味がない。もっとも、ほかの学生との関係があるから、この効果は別問題としなければならないが・・・。少なくとも先生との距離感からすれば、こちらから眺めていて、5メートルより離れて座っている学生のこころを慮ることはできない。それで、先生によって、言葉つぶてを遠くの学生に投げる方がいらっしゃるが、それは物理的距離が圧倒的に足りないことを理解していないのだと思われる。

NHKの番組で、「世界街歩き」という番組が好きで、たびたび観る。今日も夜遅く特集を行っていて、サンフランシスコ編とミラノ編を再放送していた。

きわめてテレビ的だなと思うのが、この距離感なのだ。街歩きでふつうは遠くから眺めるという傍観者的な番組が多いのだが、じつはこの番組では、明らかに前述の3メートル原則を大幅に破っている。

サンフランシスコでは、人の家の裏庭にずんずんと入っていくという魅力を見せていた。1メートルまで迫って、人のあとをカメラがついていく。そして、ときどきカメラマンの足くらいまでは、カメラに写ってしまうことになる。

つまり、「世界街歩き」では、1メートル原則で撮っていることになる。けれども、1メートル以内には、絶対に踏み込まない原則を守っている。たとえば、旅人がこんにちわ、と挨拶はするが、土地の人はあまり挨拶を返さない。あとで吹き替えで入れているせいかと、最初は思っていたのだが、それだけでもないようだ。あるいは、カメラは表面さらりとした説明ならば聞くが、どろどろした心の内側にまでは踏み込まない。これは、きわめてテレビ的だと思う。

テレビは、あまりに詳細な映像であるために、何でも写してしまう癖がある。だから、どこかで抑制が必要なのだ。クールを保っておいて、視聴者の想像力を読み込む工夫が必要なのだ。

路面電車が出てきて、外側から近接を試みる。けれども、決して路面電車には乗らない。乗ってしまうと1メートル原則を破ることになるからだ。喫茶店にせっかく入っていくのに、立ち止まることなく、決して座ってしまわない。これも1メートル原則を守っているからだ。

だから、「世界街歩き」をみていると、ぼんやりと街を歩いている気分に浸れるのだ。もし詳細なレポートが送られてきてしまったら、こんなにぼんやりとは観ることができないだろう。このように、情報量が多過ぎることをさけて、ぼんやりと見過ごすように作らなければならないという宿命を、「世界街歩き」は一心に受けて、つまりはテレビ的世界をいつも写してくれているのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。