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2009/10/24

こもりにこもった場所

Photo_2 この2ヶ月間は、ずっとこもりっぱなしで、原稿とにらめっこしていた。隠れ家ならば、ふつうの仕事はパスできるのだが、こもりっぱなしの割には、原稿以外にも大学の仕事もずいぶんこなした。

こもった場所は、ホーム図書館にしているK大図書館だ。定位置を朝一番に確保して、昼に出る以外はずっと占有している。夏休みには、学生はほんとうに少なかったから、ひとつのテーブルを全部使うことができた。最近、学生が戻ってきてしまったので自重気味だ。

Photo_3 レンガ・タイルつくりで、概観も素晴らしいが、中も明るくて利用しやすい。とくに、テーブルとテーブルの間が重要なのだが、この間隔がたっぷりとってある。ひとつのテーブルずつが、それぞれ孤立して、ひとつの小宇宙を構成するような感覚が重要なのだ。

たとえば、うしろに座った人の息遣いなどが聞こえ、なにかしゃべりかけないと悪くなるような親密な距離だと、ちょっといけない。手を伸ばしても、両方から手を伸ばしても、十分届かないだけの距離が必要なのだ。

けれども、最近の図書館では、人声やら、外界の雑音やらがなぜか入ってくる。このようなときに威力を発揮するのが、イヤホーンだ。パソコンには、好きな音楽がたくさん詰まっているし、音楽ラジオはインターネット経由で聞き放題だ。とくに最近気に入っているのは、ピアノソロ専門のラジオ局で、ここを流しっぱなしにしていると、リズム感のあるキーボードを打つようなピアノに合わせて、原稿も進むような気がする。

Photo_4 文章の仕事をしていると、まわりに本がたくさんあることが、なぜか良い。それは、一冊一冊には、その背景に著者いて、ずっと見守っているような気になるからである。もちろん、1時間に1回は立ち上がって、手当たりしだいに書物を引き出し、足あたりしだいに書棚の間を散策する。すると、それまで海の底で腐っていた頭の中が軽くなって、流れが急に早くなるような気がする。   

ディラートが『The Writing Life』で、書斎について書いている。

「書斎はおよそ横2メートル半、縦3メートルの大きさである。(略)この書斎は本を書く予定の人間一人のためには、十分なスペースである。棺ひとつのスペースで、人は本を読める。草刈り機やシャベルをしまう物置のスペースがあれば、人は物が書ける。」

じつは、この書斎は、家から歩いて数分の松林の中にあり、近くには昔からの数軒の夏の家、北には新しい農場が砂山の上にあり、砂山の開けたところから、牡蠣の養殖床が見え、入江から帆船の出て行くのが見える、という風向優美な土地にある。それで、こんな魅力的な場所を避けるために、棺ひとつの眺めのない小さな部屋を用意したというわけなのだ。

書斎に入り、掛け金がかかるように思いっきりドアを強く閉めると、何も見えなくなる。こうしないと、想像力は暗闇のなかで記憶に出会うことは出来ない、ということらしい。さらに、西アフリカの格言を引用している。格好いいのだ。「知恵の始まりは、頭上に屋根を得ることである」と。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。