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2009/08/07

勝沼の地域性

天気は不順で雨勝ちなのに、とにかく暑い。東京圏を脱して、甲州市へ来ている。有田と勝沼は、それぞれ焼き物とぶどう酒という観光資源を十分に持ちながら、交通手段に難がある。それは、車を運転しないわたしだけの問題であるのかもしれないが、駅から窯元や蔵元を回る足を確保するのがたいへんなのだ。

今は、車社会なので、自家用車で来てしまう人びとの多いのは仕方ないのだが、電車と徒歩を頼りに訪れるものにとっては、すこし残念な状況がはびこっている。各駅停車で来て、「勝沼ぶどう郷」駅経由でぶどう園に入る魅力はたくさんあるような気がする。

中央線各駅停車の魅力は、なんと言っても、たっぷり時間があるという当たり前のことである。中央線をひとつの列車で行くことはできない。高尾で乗り換え、甲府で乗り換え、さらに小淵沢で乗り換える。そのたびに特急に追い抜かれる。さらには、ホームで30分もの乗り換え時間を消費する。

おそらくこのたっぷりした時間の中で、人びとはいろいろな準備を行うのだと思われる。ぶどう酒を飲むためには、イメージの準備が必要で、勝沼へ入ってくるときに、味の反芻を行って、以前の味を呼び出している。

それは、「地域」ということのなせる特性だと思われる。この地域にゆっくりと入ってくることで、環境からの情報を身体で感じ、ぶどう栽培をアフォードする風土を感じようとしているのだと思われる。(新しく獲得した言葉は、すぐ使ってみたくなるから困るのだ)

いったい全体、そもそも地域性とは何なのだろうか。地域が示す客観的な地理的、物理的条件なのか、それとも、わたしたちが感じる主観的な感覚なのだろうか。どちらも違っているように思う。今回で、うまくこの「地域性」ということが掬い取れればよいな、と考えている。

山梨ワインのN氏に取材。ぶどうに最適な山があり、扇状地の水はけがよく、さらに寒暖の差が激しいなどの地理的条件は、ぶどう栽培への条件を整えている。だから、ほとんどは地理的な条件だ、といわれてきた。

けれども、日本全国には、このような地理的条件の良い地域はたくさんある。だから、勝沼には、それ以上の、いくつかの特性が存在することは確かだ。この辺が社会科学的には面白いところなのだが、お楽しみは後で。

その後、外の温度も35度を超えてきたので、N氏に送っていただいて、K醸造を訪問する。すでに5月にここのオーナーの方にFディレクターが取材してくださっていたので、地域のワインという目的物に直ちに到達することができた。

ここでは、農園ごとにそれぞれ別に樽詰めを行っている。通常は、ひとつの銘柄のぶどう酒は、その地区の複数の農園のものを混ぜて醸造する。ところが、K醸造では、単一の農園での醸造を試みている。すでにほとんどの農園のものは完売されていたが、幸運なことにちょうどそのひとつを手に入れることができた。面白い試みだと思う。

問題は、テロワールと呼ばれる事象だと思われる。もうひとつ、やはり気になるC醸造へ歩く。ここは前回も素敵だ、と思ったが、今回もごらんのような蔦の絡まるビルに試飲できる店を開いている。夫婦でリュックを背負った方々が、熱心に選んでいた。

ここで確かめたかったのは、勝沼の「鳥居平」(とりいびら、と呼ぶらしい)という地区のぶどう酒だ。山の上の栽培に困難に見える場所なのだが、しかし最もぶどう酒用には適したぶどうの採れる地区のひとつだそうだ。

すっかり、身体全体にぶどう酒が回ったところで、幸福な気分のまま、各駅停車の旅を続けることにする。お腹の調子もよく幸いなことに何も食べたくはなく、宿舎の上諏訪につくまでは、余韻を楽しむことにする。列車のゆれと、こころのゆれとの重なりを感じながら、旅に没頭していた。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。