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2009/03/26

沼津の魚市場

Photo_2 遠くから聞こえるざわざわという群集の声が当たり前であるかのような場所は、世の中にそれほど多くはない。駅や市役所などはすぐに思いつくが、今回は朝の4時、5時という時間である。

Photo_3 沼津の魚市場へ来ている。講義で魚市場を取り上げていて、もっとも面白いと思う点は、「身近」なものであることと、「遠隔」地で取れたものという、相異なった性格を持ったものが同居している点である。だから、もし食べている魚の来歴を知ろうとすると、ほんとうはたいへんな作業になるのだが、市場へ行けばどこから来たのがすぐわかる、というところが市場の市場たるところだと思う。

Photo_5 講義の統計などは、調べれば容易く手に入るし、写真なども出来合いのものは最近ではインターネット経由で得られることになったが、それでも市場というものの現実はなかなか伝わってこない。Aさんが欲しいと思っているものが、Bさんが持っていて、それぞれAさん、Bさんがたくさんいるのだ。それをどう一致させるのか、という古典的な問題が(わたしだけかもしれないが)現代でも面白いのだ。

Photo_6 それで、経済学のテキストのような理解をしても良いが、実際に一尾一尾の魚がそれぞれ取引されていくのを見ることは大切だと最近思うようになった。そこに行って見なければ、経済学が教えるような調整メカニズムがそこで一瞬できまるとは思わないだろう。ひとつの取引それぞれが調整のプロセスなのだ。

というわけで、築地、銚子に続いて、ここ沼津の魚市場を訪れたしだいである。朝早くから始まる。早いのはほんとうに苦手なので、沼津の街から歩いて20分くらいのところにある市場へは、薄暗いなか、太陽がすこし昇り始めてから着いた。途中、川辺を散歩しているご夫婦や、自転車で市場へ駆けつける人々に出会う。

Photo_7 外市場を通り抜け、「イーノ」という新しく作られた、市場へ入る。ここの二階が見学者用に、開放されていて、銚子のように近くに寄ってみるのも良いが、真上から観察するのも「せり」の場合にはよりわかるような気がして、良いのだ。築地のように、競り取引ができなくなるほど、観光客が来てそれを排除しなければならない、という事態をはじめから予想して避けるように作られた建物だ。

Photo_8 市場に入って、まず探したのは、沼津名物のアジだが、さすがに大量に水揚げされていて、リフト車で次から次へ、海から船が横付けされて直接市場へ運び込まれていた。まだ、小魚の段階で、上からみていると、メザシのオンパレードというところだ。

色鮮やかなのは、金目鯛だ。白い発砲スチロールの箱にピンクの身体を寄せ合って、せりを待っていた。水揚げの量もたいへん多かった。夜には、刺身や煮魚になって、食卓に並ぶことだろう。

Photo_9 この市場は近海ものが多いので、先日の銚子市場のようなマグロが並ぶことはあまり無いらしい。今日、もっとも高額だったのは、鯛で、キロ2500円だったそうで、3~4キロのものが2尾並んでいた。近海の清水の先で獲れたものだそうだ。

Photo_10 もっと大きく重い、ハマチなどがその隣にも並んでいたが、それらは養殖もので、やはり価格は安くなるそうだ。それに素人にはわからないが、と仲買の方がそっと教えてくださったが、尻尾に「虫」がいたのだそうだ。それで結構、安くなったとのこと。その虫が害のあるものであれば、まったく取引されないだろうから、質を落とすだけの「虫」だったのだろう。けれども、こんな判断は、一消費者では到底できないだろう。卸市場というものの存在する理由の一端がわかった気がした。

Photo_11 貝類の競りも行われており、一番最後には、生簀のヒラメたちが競り落とされていた。競りはほんとうに一発勝負で決まる場合が多い。それで、同じ価格をつける仲買が何人かいる場合には、どうするのか。

経済学の教えるところによれば、競り市場では、オークションが機能するのだから、同じ競り価格が叫ばれれば、価格が上がっていって、最後に最高値をつけて落札した者の手Photo_12 に渡る、となっている。けれども、理論と実際は異なる。ここでは、同じ価格の場合には、ジャンケンをしていた。つまり、相場はあらかじめ決まっていて、それよりも高くなることも低くなることもないのだ。ただ、ここでは誰のものが誰に渡るかが決定されればよいのだ。

そして、落札されたことは、水で濡らされて、ぺたっと箱に貼られた会社印のついた入札票が示すことになる。6時を過ぎる頃には、仲買人たちが仕事を終えて、市場を出て行く。運搬人たちがトラックへ運び込んで、散っていくのだ。

Photo_13 朝ごはんは、市場の2階の隅にある魚定食の店にて食べることにする。ごろっとした焼き魚(今日はマグロだった)が無造作に皿に乗っていて、いかにも魚市場の定食だ。こんなのを毎日食べていたら、街中の定食は食べられないだろう。とうぜん、味噌汁は蜆の味が美味しい、たっぷりしたのものだ。

Photo_14 見学者通路の壁には、魚の種類を描いたポスターが並んでおり、理科の勉強にも最適だ。図鑑と生の魚を見比べながらの見学は、滅多にできない体験だ。そのなかの1枚だけ、昔の沼津港の写真が掲げられていた。

Photo_15 そういえば、高校時代に戸田の友人宅へ泊めてもらい、帰りに船で西伊豆を見ながら沼津へ出たことを思い出した。そのときの印象では、道の両側に干物屋さんが出ていて、緑のプラスチックのかごに、あじの干物が入っており、高校生でも買えるくらいの土産物だPhoto_16 った。海から港へ入ってきて、上をみると、富士山が典型的な姿を見せていた。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。