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2009/02/16

青山の思い出

Photo_9 妻が、3月に閉館してしまう「青山ユニマット美術館」の招待券をもらってきたので、二人で出かけた。スポンサーは、先日なくなったと新聞で報道されていた不動産会社の社長で、亡くなった途端に閉館とするということも、なんとなく底の浅い事業であった気がする。

けれども、収集品は厳選されたものが多かった。とりわけM.シャガールのものに特色があり、特集されていた。シャガールは、美術の教科書には必ず載っていて、小学・中学・高校では何度となく、わたしたちは見ていて、日本人にとって馴染みの画家だ。たとえば、高倉健主演のやくざ映画でも、親分がシャガール収集の趣味を持っているということを「見せびらかし」効果として使うくらい、日本人の絵画趣味のなかに定着している。もしこれほど皆がシャガールを知っていなければ、映画のなかで洋画収集の趣味を題材として取り上げたときにこれほどの効果を持つことはないと思えるからだ。

キュビズムとフォービズムの影響の多い、1910-30年代はあらためて文脈を追ってみると面白い。今回のなかでも、「酒呑み」「ダブル・ポートレイト」などに見られるような、自己の分裂や、多重人格性などは典型例だ。「あなたはわたしで、わたしはあなた」という状況は、思ったほど、日常では得られないが、絵画では数日で実現されてしまうのだ。

きょうの一枚は、やはり読書論がまだ頭から離れないらしく、書いてしまった読書論をさらに書き直したいと考えていることが、自分でもわかるような一枚となった。1925年作品「本を読む男(ラビ)」。ユダヤ教の聖職者ラビが目をかっと開いて、絵の半分を占める大きな黒い本を広げている。意思の強そうな鼻筋の通った顔立ち、輪郭のはっきりした大きな顎、そして背景にある建物と風景。いずれも、いつものメルヘン的なシャガールとは異なる構図になっている。

Photo_11 青山には、若いときに何回か来ていて、とくに渋谷に住んでいたときには、ちょっとした散歩コースに入っていた。表参道の地下鉄を降りて、紀ノ国屋向かいのビルの地下に、緑の色調のおしゃれな西洋飲み屋があったし、六本木に向かう道の右側に、不思議な雰囲気のレコード店が当時あり、他の店では手に入らない英国トラディショナルやフィドロの音楽のレコードが手に入った。いずれも、今は跡形もない。その昔、妻と出会って、2度目のデートがこの辺だったような気がする。そのとき寄った店もやはりもう無かった。もっとも、変わらない代表選手も「健在」で、青山墓地はモダンなビル群の裏に、いまでもある。

今回、スーパーマーケットの紀ノ国屋ビルも建て変わっていて、ポストモダン風な建物に変わっていた。その向かいの小路を入っていったところは、昔から小さな店が群居をなしていた。個々の店はほとんど変わってしまったが、全体のレトロな雰囲気はかなり残っていたのには救われる思いだ。

Photo_12 この小路に、甲府の喫茶店ロッシュがモデルとした店のひとつがあると聞いていたので、探してみることにする。ところが、二往復して店を確かめたが、その名前の店がどうしても見つからない。そこで3度目には方針を変え、名前や看板で見ていくのではなく、スペースでそれらしきところを見ていった。

2 あった。名刺が1枚貼ってあるだけ。けれども、ひとたびドアを開けてなかに入ると、70年代のにおいがしてきた。喫茶店ブラックホークを思い出して、一番奥の窓のテーブルを占め、今日最後の1杯のブレンドを注文する。居心地が良くて、結局3時間ほど過ごすことになった。木枯らしの舞う道を渋谷まで歩いPhoto_13 ても、20歳代の自分に帰った気分で久しぶりに爽快だった。気分が落ち込むことが続いたけれども、ずっと持続すれば出会えることもあるのだと、気を取り戻すことにする。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。