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2009/02/12

M先生の訃報に接して

お茶の水女子大学のM先生が11日に亡くなって、複数の異なる系統から訃報のメールが届いた。M先生が生前から多くのかたとの交際を行っていて、いかに親しまれていたかを示している。

わたしが最初に会ったのは、設立以来ずっとお世話になっていた財団法人の家計経済研究所が公開講演会のために市ヶ谷の私学会館で開いたパーティだったような気がする。ちょうどM先生が共立女子大学からお茶大へ移った頃だった。日頃はパーティにはあまり出席しないのだが、この日だけは何人かのかたと会うことができて、印象に残っている。

すでに少ないながらも互いに家計論分野で論文を書いていたので、顔を会わせるのは初めてであっても、だいたいの見当はついていたと思う。それに、彼女のほうはこのような狭い業界では、かなり有名な存在であった。この分野で新しいことをやり、かつ分野全体を導いていかなければならないことが、若くして背負わされていた。

今から顧みると、方向性はずっと決まっていたような感じがするが、当時は五里霧中、互いに手探りで進んでいた。今日までの動きをみればまとまった動きを相当見せていることはわかっても、だからこそ、そこでは方向性を指示するものが求められたのだと思う。彼女の位置はそのようなところだったと思われた。

なかには、ユニークで素晴らしい論文を書く人が他にいなかったわけではないが、彼女に課せられたものはそれ以上であったことは間違いない。多少落ち着いたものでも、方向性を維持することにタイムキーパーとして動かざるを得なかったこともあったと想像される。

どちらからというわけでなく、財団法人家計経済研究所の部屋を借りて、研究会を持とうということで、かなり息の長い研究会を数年間、気の置けない形で続けることができた。1回ごとの会が終わるたびに、議論の楽しみを実感した覚えがある。途中で人の出入りはあったにしても延べで10名ほどが参加した。ここでいろいろのことがわかった気になった。この職業に就いて良かったと思えた瞬間のひとつであることは間違いなかった。

そのうちに、M先生がお茶大の要職につくようになって、時間がままならなくなってきた。研究会もそのころにほぼ終結へ向かったような気がしている。

この研究会で確認していったのは、互いの共通点と相違点だった。共通点は最初からはっきりしていて、旧来の「賢い」家政論や、「合理主義」的な近経の効用論をそのまま家計論に持ち込んだような、この分野のおかしい議論を一掃したいと互いに思っていた。とくに、彼女は中心的な位置にいたので、社会的にも新しい家計論を切り開く要請が強く求められたと考えている。

そのために共通の戦略を暗黙のうちに採っていたように思われる。それは、家計という単位を分離された独立したものと見なさず、社会のなかで、家計外のものとの相互作用で考えてみようということだった。けれども、ここで攻略上の互いの違いが次第に明らかになったと思っている。

どこが違っていたかといえば、詳細は省くとして、彼女は家計の構造、つまり縦に深く進んでいく議論を展開していった。これに対して、わたしのほうは家計のネットワーク、つまり横に広く結びついていく関係を問題にした。けれども、最終的にはこれらは対立するものではなく、統合できると考えていた。たぶん、彼女のほうも、そう考えていたと思われるが、今となっては推測するほかない。

もう一度、研究会をつくって、ここのところに関して議論してみたかった。突然の訃報に接して思うことである。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。