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2008/12/22

山梨出張

前日からの仕事がどうもうまくいかなかった。うまくいかなかったで済む話と済まない話のあることはわかっているのだが。それにもかかわらず、どうしてもうまくいかないことが起こる。さてどうしようか、と考えているうちに、電車に乗る時刻になってしまった。

山梨出張の前に、締め切りの仕事を仕上げようと考えて朝6時まで頑張った。ここ数ヶ月の泥が脳に溜まっているらしい。結局いろいろな本を読むうちに、タイムアップで、山梨へこの仕事をもっていくことにする。山梨でうまく泥を落として切り抜ければ、なんとか追いつくことができるだろうという、楽観主義なのだが、それはどこまで通用するのだろうか。

つまり、たいていの人は複数の人間関係を抱え、複数の仕事をしているのだ。それで、どちらかの仕事をすれば、他の仕事はできないのだ。そのやりくりを行うことで、何とかやっている。

先日、時間の達人と皆が認めるK先生に、どうしたら複数の仕事をなんなくこなすことができるのか、聞いてみた。その結果は図らずも、聞くんじゃなかった、という結果だった。同時に二つの仕事はせずに、ひとつずつ集中して終わらせる、という回答だった。集中せよというのは、厳しい。もちろん、それでは誰にとっても適用できる答えというわけには行かないかも。

時刻表で検討すると、横浜から甲府まで、特急を使っても鈍行と30分しか違わないことがわかった。旅は鈍行が一番、という内田百閒に従って、横浜線を抜け、高尾に出る。

鈍行の良い点は、それぞれの駅で待ち合わせがあり、そのときにコーヒーやそばや、ラーメンをつまみ食いできるところだ。高尾はすでに東京の住宅地でありながら、中央線のスタート地点としての役割を意識している駅だ。もうすこし美味しければ言うことはないが。

相模湖を過ぎて上野原などの新興住宅が丘のうえにある地区を過ぎると、電車のなかも閑散としてきて、鈍行の旅らしくなってくる。甲斐の国に入ると、すでに葡萄園が葉を完全に落とし、びっしりと敷き詰められた絨毯のごとくに、蔓だけの畑が連なる。ゆうゆうと、甲府に到着。

山梨大学附属図書館で、他では手に入らない研究書があるというので、閲覧を申し込むと、残念ながら研究室に入ってしまってみることができないという。仕方ないので、すこし早かったけれども、放送大学の山梨学習センターへ行く。今日はお休みにもかかわらず、センター所長のY先生が出てくださって、卒論生Hさんとの面談を可能にしてくださった。Y先生の善意に恐縮するしだいである。

おかげでHさんの方向性も定まった。Hさんの報告を聞いていると、放送大学で卒論を書く意味に、ふつうの大学とは異なる意味が加わっていると感じる。経験的なことなのでうまく言えないが、あえて大上段風に言うなら、学術論文を書きながらも、人生の「生き方」モデルを追及したいという、実践的な意味をこめようとする姿勢が特徴として出ている。学生によっては、このことがマイナスにはたらいて、論文ではなく感想文風になってしまう人も出てくる。けれども、放送大学は社会人の大学なのだから、むしろ積極的にこの方向を狙うのも良いのでないかと、最近では考えている。

HさんとY先生との雑談で、金融危機のことが話題になった。貨幣や金融について、現在の日本人が転換点にあるという認識を持っていらっしゃることがわかって、興味深かった。

さて、今日の宿は、甲府からすこし戻って、勝沼(現在は甲州市)の「ぶどうの丘」というかつての町営ホテルに決めていた。駅に着くと、すでに陽が落ちていて、昼間の展望は夜空とつながって、闇のなかに溶け込んでいた。

ブドウ畑の谷と山の起伏を楽しみながら、さながら迷路の庭園を散策するがごとくに、向こうの丘のうえまで到達する。旅の醍醐味は、孤独にその土地に溶け込むことだが、その趣が十分達成される場所だ。そして、ここは単に眺望が良いだけでなく、ワインが集められ、さらに大浴場の温泉があるのだ。着いて早速、グラスワインで、前回の甲府で美味しかったアルガノワインのなかでも、2006年のいかにも熟成したという味の辛口白ワインを注文する。窓からは、甲府盆地が一望でき、近くにはワイン工場、遠くには笛吹町から甲府の繁華街へ通ずる照明が輝いていた。ひとつの宇宙が手に入ったかのような展望だ。

部屋に帰ると、宮崎あおい主演「初恋」を放映していた。1968当時の新宿を再現していたが、当然現在から見る当時という形になっていて、当時の、人が溢れるような猥雑な街という趣向は、画面には現れていなかった。人間関係が希薄になっていく時代という時代精神は良くわかるが、このような希薄さのなかで、主人公以外みんな死んでいく。そして、誰もいなくなった、という結末は、いかにも空しい。山のようにワインが詰まれた売店から、麻屋葡萄酒の「勝沼甲州シュールリー2006」を購入して、今日の最後の一杯とした。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。