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2008/11/18

どですかでん

『横浜の文士たち』という本を妻が図書館から借りてきた。中島敦や大仏次郎は横浜に住んで活躍したことは有名であるが、このなかで島尾敏雄が横浜出身であることを知った。

横浜でも、この弘明寺の街で生まれ、どうやら弘明寺と鎌倉街道にはさまれた地域で育ったらしい。丘の上には、横浜尋常小学校があったらしく、そこに通ったとのことだ。まだ読んでいないのだが、『幼年記』という彼の本にそのことが描かれているそうだ。こんど、借りてきて読みたいと思う。

島尾敏雄の作品をたくさん読んだわけではないが、やはり南の島での妻との生活というイメージがあって、横浜のこんなにごちゃごちゃしたところで生活していたとはとうてい思えないのだ。先日も書いたように、弘明寺は市電の終着駅のひとつで、当時は現在よりも栄えていたと思われる。

市電といえば、先週NHKのBSでの黒澤明特集で、映画「どですかでん」が上映されていた。この作品は、山本周五郎の「季節のない街」が原作であることはよく知られていて、この街も横浜の南区の一角をモデルとしたらしいということになっている。(泉谷しげるの「季節のない街」も名曲だと思うが、山周のハードボイルドで現実感あるファンタジーも好きだ。)ふらっとあるいていると、こんな街に迷い込むこともあるかもしれない。「どですかでん」と市電が走ってきたとしても、この辺ではなんの不思議もなかった筈だ。

この映画を観るのは何回目なのかわからないほどなのだが、それぞれオムニバス風のひとつひとつの結末は、そのプロセスが強烈だけに、観終わるといつも忘れてしまう。だから、何回見ても飽きないのだろうか。

今回観ていて、それぞれのエピソードの結末はかなりハードだな、と初めて感じた。これまでわたしが鈍感だったということだ。たとえば、家を建てる夢ばかり観ていて、息子に残飯もらいをさせている親子の話だ。最後に、食中りでその息子を死なせてしまうのだが、埋葬の場面で思わぬ逆転をやってのける。

この結末には、賛否両論があるだろうが、山周のハードなファンタジーが結実していることは確かだし、さらには、真面目で真剣な取り組みを行っているかと思えば、突如として、通過してしまうという横浜的な要素がぷんぷんとしてくるような気もする。

親密さが解体されるのが、このオムニバスの共通のテーマだと思っていたが、けっしてそうではなかった。伴淳演ずる公務員や、南伸介演ずる靴屋などでは、崩壊して当然の親密関係が、決して崩れないというところが描かれてる。黒澤明の人生の最不調期に、この映画は作られたらしいのだが、その悩みがこの素晴らしい映画を作っても晴れなかったのだろうか。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。