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2008/11/27

乃木坂のピカソ展

きのう、『市民と社会を生きるために』の収録が2本あり、そして明日にもT先生との掛け合いで、1本録ることになっている。このように狭間にある1日は、ほんとうに所在ないので、何事も手に付かない。とくに、まとまったことはできない。

そこで日中の仕事は早々に切り上げて、乃木坂にある美術館へ、懸案のピカソ展を見に行く。これまでも、何度となくピカソの絵を見てきたが、やはりいつも量が多いので、なんとなく気ぜわしいときには、あとへあとへとなってしまう。

http://www.asahi.com/picasso/

1970年代末にピカソの版画展が来たときには、それこそ半日掛かっても、まだまだこれでもかと展示がしてあって、見終わってようやく友人と顔を見合わせ、やったな、という感想を持ったくらいである。今回も、パリのピカソ美術館のものが総出で押し寄せてきたという触れ込みなので、こころの準備をして、十分な時間をとったしだいである。

展示場の終わりころになって、「やあ」と寄ってきたのは、先日一緒にお酒を飲んだ哲学のS先生である。ヘーゲルから絵画論まで守備範囲の広い先生で、尊敬している。横からボーダーシャツの息子さんが出てきて、挨拶した。中学生のかれと気が合うのだ、と先日話されていたのを思い出した。どうだったと息子さんに聞くと、「変な顔だよ」と、ちょうどそのコーナーにある絵の感想を率直に述べていた。たしかに、キュビズム的な顔は、そうだろう。

S先生との立ち話で、キュビズム時代の絵について、層化がわかり面白かったと述べると、立体のがよかったね、と打てば響く答えが返ってきた。展覧会を観て、最後にこのような共感の言葉が聴けるかどうかで、その日の収穫が違ってくる。別れてから、ひょいっと振り返ると、身体をぐっと斜めにして絵を楽しんでいるS先生の姿が見えた。

最近は、展示目録を必ず配布するので、観終わってからもう一度ざっと回りながら印をつけていくと、全部で20余りの作品に○が付いた。通常の展覧会だと、3つくらいが平均なのに。それで、今日の最高の1枚はなにか、などは到底挙げることはできないが、あえて言うならば、連作ものが良かったと思う。

「ギター」と題されたキュビズム時代の連作があって、今回はコラージュ風の絵画5枚が連作に見えた。バラバラに展示されていたので、ピカソ自身が連作という認識をしていたかどうかは不明だが、外部のものから観れば明らかに共通のモチーフがそこには存在している。

スタートは、「バイオリンと楽譜」(1912)という作品で、ギターではなかったのだが、ここで、バイオリンのイラストに、現物の楽譜が貼り付けられている。次に、「ギター」(1913春)では、楽器の本体部分とネックの部分が切り離され、その上に楽譜らしきものが真っ白い四角として、描かれている。さらに、もうひとつの「ギター」(1913春)ではさらに抽象化が進んで、本体とネック部分、さらに楽譜部分とがずらせながらも、層化され全体が結びつけられ、全体の統合が行われているのだ。これらの分断化された部分は、最後の「ギターとバスの瓶」(1913春から秋)では立体的な木片コラージュで総合されている。

この過程では、デフォルメは数限りなく行われているのだが、加えて、色の反転、左右の入れ替え、部分への解体などの分析的キュビズム(解説書を読んでないので、正確な表現なのかわからないが)が行われていて、精力的なピカソらしい表現が随所に現れている。そして、それらの層化(レイヤー)のバランスが興味深いのだ。

S先生は、すでに数回来ているそうだが、「質の高いピカソが来ている」という表現を使っていらっしゃった。見逃したら、こんなにまとまったものはもう金輪際観られない、というくらい満足する展覧会だった。キュビズムとは、こんなに簡単なことだったのか、ということがわかるのだ。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。