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2008/10/22

異なる分野の先生方との対話

放送大学で仕事することができてよかったと思える場面はたくさんあるが、そのなかでも他の大学ではほとんど味わうことのできないのは、専門領域の異なる先生方と討論する機会がたびたびある点である。雑談をさせていただくのと違って、これはこれでたいへん刺激的な体験で、その刺激の程度も基盤の違いを克服しなければならないので、はなはだしいこと限りがないのだ。

今日は、ちょうど福祉専門のM先生と、わたしとがそれぞれ1時間ぐらいずつ話題提供して、他の先生方の意見を受ける当番に当たっていた。話し終えてから、質問や意見がたくさん押し寄せてくるのだが、その中で、やはり後にまで気になるような、前以て想定していた以上の質問が出て、ちょっと面食らう場面もあった。このほんのすこしの違和感がじつはたいへん楽しいところでもある。

今回、わたしは、放送大学の提供している生涯学習の特徴はなにか、という趣旨で問題提起した。簡単に要約すると、経験を持つ学生や社会文化的な知識の蓄積されている社会と、大学との間で、これらの知識が循環するような、いわば開かれた大学としての、放送大学像を提示し、問題提起と事例紹介を行った。

これに対して、わたしが述べた事例以外にも、「知識循環」に関して、たくさんの事例がすでに放送大学のなかには存在するという指摘がいくつかあって、それはたいへん参考になったし、発表した甲斐があったと感じることができた。意を強くしたしだいなのだ。

もちろん、反論もあって、「知識循環」という生涯学習の方法が当てはまらない分野も存在するのではないか、というK先生の指摘があり、ちょっと虚を衝かれた感じだった。とくに、物理や生物などの「理学」からの視点では、社会人の「経験」との知識循環などはあまり期待できないのではないかと指摘されてしまった。

もちろん、社会人の方々のなかにも、相当な学識の方がいらっしゃって、理学的な経験を十分に持っている方も確かにいる。また、放送大学生は他大学に比べれば、かなりの理学的な知識を溜めている方がいらっしゃることは確かだ。でもやはり第1線級の研究を学生が行うことは、今日の世の中ではおよそ想像できないということらしい。

他の理系の先生の言い方では次のようなこともおっしゃっていた。つまり、「知識循環」という社会的な現象はどうでも良くて、個人が「知識」ではなくむしろ「知恵」を働かせる結果として、循環が生ずるのだとおっしゃっていた。例として、寺子屋を挙げていた。

簡単にいえば、理学系の分野では、「知識循環」としての生涯学習を行うことには少なからず困難があり、むしろ教養教育の方向性を生涯学習にもっと盛り込むべきである、ということを示唆なさったのだろうと解釈した。この点は、たいへん刺激的な意見なので、理学系ではどのような「知識循環」が可能なのか、もうすこし考えてみたいと感じたしだいである。

あれやこれやで、論争の種は尽きない。いずれは、今日発表した意見に対して、先生方の反応という形で回帰してきたものを、さらにもう一度こちらが考え直さなければならないだろう。ということは、今日の発表と先生方との討論も、じつは「知識循環」の一環であり、1事例なのだと考えることができる、と牽強付会して、今日の締めくくりとした。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。