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2008/10/19

「20世紀末バブルはなぜ起こったか」

Furuno 放送大学の大学院を出た後、東京経済大学の博士課程に進んだFさんが、久しぶりに神奈川学習センターの研究室へいらっしゃった。

著書の『20世紀末バブルはなぜ起こったか』桜井書店刊を持ってきてくださったのだ。米国の金融危機が起こって、そのタイミングを測ったかのような出版であり、時宜を得るという言葉通りの本だと思う。Fさんは大手の銀行に長くお勤めになって、ちょうど1980年代から1990年代にかけてのバブル経済とその崩壊に立ち会ったのだ。

今回の著書は、その体験をうちに秘めつつ、むしろきわめて理論的にバブル現象を解明したものになっている。日本のバブルの説明では、資本蓄積説、長期波動説、心理要因説、制度要因説の4説を検討していて、それぞれに理由を認めているが、全体としては「資本蓄積説」に傾いている印象を持った。

経済成長の目覚しい時期のあとには、必然的に過剰な金融資産が生まれ、その調整過程でバブルが崩壊する、と考える説である。問題は、必然的に生ずる過剰な金融資産をコントロールすることは不可能なのか、という点にあると思われる。

今回の米国金融危機でも、サブプライム・ローンとその証券化商品に過剰な資金が世界中からあつまったところに問題が発生したのだ。この過剰な資金を監視し、どうにかする方法というのは、存在しないのだろうか。1国ならば、金融当局に責任があるのだろうが、国際的に行うことに昔から難があった。

今回の金融危機騒ぎのなかで、とくに興味深かったのは、英国とアイルランドの摩擦であった。アイルランドの銀行が危機に陥り、公的なコントロールの元で、資金凍結が行われた。ここに投資していた英国銀行や投資家たちが騒ぎ、英国政府が凍結を非難し、逆に今度は、アイルランドの資金を英国で凍結したために、両国が喧嘩状態に陥ったのである。

ここには、金融危機というものの危機の様相がよく現れていると思う。つまり、金融というのは、すべてが連鎖的な状態にあり、ひとつの危機をブロックしたり凍結したりすると、周りのみんなが迷惑をこうむる可能性があるということである。したがって、今回の米国金融危機では、英国とアイルランド以外では、ほとんどブロック、バリアー、凍結などの連鎖を阻むような、昔ながらの政策はほとんど表に現われなかったのだ。

公的資本注入という、「罰」よりは「慈善」を選択し、どちらかといえば積極的な総量政策に終始したのが、今回の特徴である。他に手段がないわけでもないのに、やはり「貸し渋り」などの実体経済への波及効果を恐れて、ひとまずは資本注入で様子をみているように傍からはみえる。総量的政策がうまくいかなくなった時点で、連鎖反応を起こさせないような政策が取られることになるのかもしれない。

などという、雑談をして、しばし本の内容について、お話を伺い、議論を重ねることができた。話していて、この本の特色がわかってきた。理論的なところもたいへん興味深いが、それと同時に、銀行経営との関係で、バブルを論じている部分にとくに説得力があるように感じた。著者の「暗黙の思い入れ」とでも言うべきものが効いているのだ、と解釈したしだいである。

この本には、バブル期の年表も付いており、またクロニクル史としても利用可能なので、ぜひ一度、お手に取って、自分のバブル期のことを思い返していただきたいと宣伝したい。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。