« さらに欲望は高まる | トップページ | テレビと現実 »

2008/09/23

「一枚の絵」のこちら側

展覧会の第3会場に入って、左側をみると、インドの少年の絵がかかっていて、その奥に「村落(カジュラホ)」という題の付いた一枚の絵があった。最初見たときには、それほどの印象はなかったのだけれど、見ているうちに、なぜかものすごい絵のように感じてきた。

真ん中から右側にずれて全体の3分の1ほどを占める路地が右から左へゆったりとカーブしている。見ている側にせり出してきている。

人間が生活しているところであれば、世界中どこにでも見られる路地で、そこは石畳で作られていて、数百年間にもわたって、人が踏みならしてきたせいか、その石畳の中心線へ向かって、なだらかに凹んでいる。

見ている人は、斜めに家に沿って、路地を歩き、その村落の雰囲気を楽しめるかのようだ。たぶん、路地で隔てられた左の家が、自分の家で、大きな曲線の壁が現実をどっかりと受け止めている。壁はこの画家特有の黄色を駆使していて、壁の上部には品のいい朧な影が刻まれている。

路地を挟んで右の家が、小さいころからいつも遊びにあがりこんでいた隣の家だと思われる。三つの扉が未来の想いへ開かれているが、決して楽観できない狭さだ。やはり、現実に押されてしまっていて、細やかな将来が悲観的に描かれている。

村落には、このような基本的な2つの家と、もうひとつ奥のほうに、外界というものを象徴的に描いた、色が華やかなもう1軒がたたっている。その前には家畜がいても、何の不思議はない。家畜は、村落の重要で、基本的な構成要素である。

きわめてシンプルな3軒の家だけで、「村落」というものの基本的な姿を描写するのに十分な構成を保っている。いつかずっと昔から、どんな街へいっても、ほぼ同じ基本的な構図をみることができたような気がする。

つまりは、現実、想像、象徴の三つの世界が、黄色の世界として、しっかりと描かれている絵となっているのだ。

もちろん、他の作品も素晴らしい。壮大な「渡河」や5人の少女が違った方向へ視線を放っている「紅裳」などは、この画家の代表作だと思われるが、けれどもやはりそれにもまして、家シリーズは、他のものを圧倒していると思う。チラシにも載っていた「裏町(カルカッタ)」は、家が5,6軒描かれているのだが、水辺に建ち、黄色な壁と橙色の屋根、ドアがあって窓もある。すべて同じ色、同じ構成なのだが、全部が全部違っているのだ。家族的類似の典型例である。

また、家シリーズのなかでは、先ほどの「村落」を除けば、「民家(ブバネシュワールオールドタウン)」が良かった。ばんと、壁の黒い家が建っていて、黒い扉が存在している。明るい屋根と白い路地、奥の赤レンガ積みと石垣の落ち着きが5メートルほどある絵全体である。ほんとうに落ち着く絵である。

家というものは、人が住むものである、という当たり前のことを思い出させてくれるのだ。みんな違っていて、みんな同じなのだ。神奈川県立近代美術館葉山館にて、「秋野不矩展」。

http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2008/akino_fuku/index.html

P.S.秋野不矩の言葉として、作品の間の壁に、次の文章が掲げられていた。

「私は日頃思う。
頭で考えるより
体で行う中で識ろう。

インド人がはだしで
土を踏むような心で
絵を描こう。」

ということは、上で書いた「村落」の解釈は違っていたことになるかもしれない。家畜ではないのだ。その黒い牛の存在と位置がどうもおかしいと感じていた。インドでは、物語の始まりは、どうも黒い牛が動き出すところかららしい。

ということは、この絵についても、黒牛が見える「路地」こそが、この絵の中の「象徴」である可能性がある。三軒の家々は、この路地で結び付けられており、はだしで土を踏むような関係が、ここをめぐって育っているのだ。

« さらに欲望は高まる | トップページ | テレビと現実 »

絵画・展覧会」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/42573702

この記事へのトラックバック一覧です: 「一枚の絵」のこちら側:

« さらに欲望は高まる | トップページ | テレビと現実 »

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。