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2008/09/17

ワインの地域的価値

味わうということには、かなりのタフさが必要だと気づいたのは、歯の治療中だからというわけでもないし、仕事のし過ぎで胃が痛いからというわけでもない。やはり、むしろ精神的なものからくるものだった。

美味しさを味わうということは、あれかこれか、と外側からたんに比較してみせるだけでは駄目だ、という当たり前のことさえ、これまでわたしはわからなかった。美味しいのか、美味しくないのか、という二者択一で物事が判断できれば、世の中は単純だが、それはたんに、そのように考えた人の脳の回路が単純すぎるからに過ぎない。

甲府に着いた昨日、講義を終え、まず駆けつけたのは、かねてより目星をつけていた、ある酒屋さんだ。もちろんワイン専門の。というと、有名店は限られてくるのだが、駅に近い超有名店は避けて、折角自転車を借りているので、ちょっと遠出して行ってみる。

ワインについては、誇るわけではないが、ほぼ素人だ。もっとも、幕張生活の3年間で、放送大学本部の隣にある、フランス資本だった「カルフール」のワインをたくさん飲んでいたので、基本的な重さ(ボディ)や、渋み(タンニン)、甘口・辛口、香りなどの味覚は、すこし身についていたとは思われる。

けれども、甲州での経験は、ここへ来るたびに少しずつ飲んだ経験の蓄積しかない。今回のように、ヒアリングを行ってみたいとは、これまで考えも及ばなかった。

酒屋さんには、ちょうどご主人と奥さんがいらっしゃって、いくつかの銘柄を薦められる。1000円から2000円くらいが、この出張でのホテルで飲むには十分だと思ったので、それを選考基準にした。

ワインの話をするためには、ワインの味の共通感覚が存在しなければ、話が通じない。重いほうが良いのか、辛口がよいのか、系統だって、検討してくださる。つまりは、わたしの経験不足をさらけ出すことになるのだが、そこは客であることの特権を利用して、ワインの比喩的な言葉を引き出させて、理解しようと努める。

興味深かったのは、その銘柄を飲んだことのない人に対して、このワインがどのようなテイストを持ったものかを、いかに説明するのか、ということである。それは、情報を伝えるときと同じなのだ。ほかのもっと一般的なものと対比させて説明するか、それとも、類似のものへずらせて説明するか、さらには、ぜんぜん異なる味の存在を明確に示すか、ということに尽きる。

このとき、カントがいうように、共通感覚が互いに育っていれば、かなり通じやすい状態を確保できるのだ。話しているうちに、結局は言葉が尽きてしまった。となれば、あとは実際に飲んでみる段階になった。

勝沼醸造というところの「アルガーノ」シリーズの白と赤を購入して、ホテルへ戻る。白は期待していた以上の味だった。酸味がとくに利いていて、喉の奥のほうのリンパがきりきりと軋むのを感じた。この味ならば、日本酒に負けないと思われる。他方、赤のほうは、偉そうなことを言わしてもらえるならば、思っていたほどではなかった。このような言い方は決して、甲府では誰を言わなかったのでたいへん不思議だったが、この味ならば、外国のワインのほうがもっと安く手に入る。

なぜ甲府では、外国のワインと比較するというのが、禁句となっているのだろうか。それは、「美味しさ」ということの認識の違いがあるということだと思われる。単純に美味しいか、それとも不味いか、というワインへの関心の持ち方というのは、関心の範囲が大きなグローバルな判断を表しているということだと思われる。それに対して、小さな範囲でも「美味しさ」というものの判断が有り得て、その基準はかなり地域に「限定した」美味しさという考えが成り立ちうるのだ。

A銘柄の2000何年ものが、その銘柄では基準になっていて、その基準ボトルと比べると、今年のものはどのような特色があるのか、というテイストのあり方があり得るのだ。地域的なテイストは、このような「反省的な」基準の存在に敏感であることがわかった。

酒屋のご主人と奥さんの推薦には、微妙な違いがあって、共通なところからのずれがなぜお二人に起こるのかをしばし考えてしまった。それは、本人のずれではなく、わたしからの情報を得て、顧客であるわたしがどのようなテイストを持っているのかを推測するときのずれではないか、とも思われた。

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