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2008/07/08

marsh 低湿地

京葉線に乗って、東京を抜け出すころには、まだ小雨さえ降っていなかった。舞浜駅に着いて、カップルたちがディズニーランドへ殺到してからは、がらんとした電車を追って、煙ぶるような雨が地面から沸き立ってきた。

市川塩浜駅あたりには、東京と千葉を分ける江戸川の河口が広がっていて、海のほうはずっと180度視界が開けている。海と空を分ける線があったとしても、昇りたつ霧を通して、太陽光線がきらきらにしてしまうため、曖昧な境界となっている。

他方、陸側をみると、ところどころに葦が茂っていたのではという、かつての湿地帯を想像させる地形である。山本周五郎の『青べか物語』が展開されたのは、この辺なのかもしれない。

先日読んだ梨木香歩の『ぐるりのこと』のなかで、次のようなところがあった。「marshという言葉が好きだ。陸地と河川を分ける境界にある、湿原、沼地のようなところ。・・・・・・全て曖昧になっているのに、ただ、marshという言葉の周囲に立ち上がる、水気を帯びた空気や丈高い草々、生活する鳥や獣たち、そして昆虫、そういった多様ないくつもの生命が、一斉に風に吹かれていく感じ、そういうものだけはっきりとした気配を伴って私の脳裏をよぎるのだ。言葉というものは本当に不思議だ。口にしただけで何かの霊が降りてくる、魔力をもっている、と、昔の人が考えたのも無理はない。それはある特定の神秘的な場所が、霊力のある地とされてきたのとおなじように。」と述べていた。

電車の窓の外を通り過ぎていく景色のなかでは、青べかの時代から、いくつもの自然が生成し、また壊され、さらに成り立っていったのであろう。自然のうしろに、もうひとつの自然が二重に存在し、その境界線上では、人間が何か責任を持っているかのように立ちすくんでいる。その境界は、常に何らかの表現を求めている。境界を行き来する態度が試されている。

「ぐるりのことは中心へ吸収され、充実した中心はぐるりへ還元されていく」というなかで、人間も自然に投げ込まれ、さらに自然へ還元されていくしかないことを思い知ることになる。湿地帯は「ぐるりのこと」そのものであって、昔からその発する水蒸気で、何もかも包み込んでは、そこから循環するものを送り出してくる。

江戸川をすぎた海沿いの倉庫群のなかに、Amazon.comの配送センターを見つけた。先週届いた本も、ここから発送されたものかもしれない。湿地帯だったので、畑も駄目で、工場も立てることができなかった。そんな場所だからこそ、現在の日本でも、もっとも循環の激しい書籍倉庫が、ここにできたということなのかもしれない。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。