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2008/06/16

出産と子育ての分離

映画「ジュノ」は、近未来映画ではないにもかかわらず、日常のあり方としては、ちょっと先をいく生活を提言しているように思えた。わたしは、この映画は一種の「思想」映画だと思う。引き受ける側が、片親であっても、里親制度は通用するのだろうか。

出産ということが主題である。ふつう、出産した子どもは、自然に任せるならば、その親に属し、子育ても行われることになる。けれども、考えてみれば、かつて思想家のルソーが試したように、自然の親が生んだ子どもを受け継がない例は、数多くある。

とりわけ、現代のように家族の枠組みが崩れてきている社会では、さまざまな方法が行われる「可能性」があることはわかる。今回は、「ジュノ」の場合が問題なのだ。

高校生ジュノは、同級生のポールとの一度のセックスで妊娠してしまう。16歳では、子どもを育てることができないので、生まれた子供を里子に出すことにする。いろいろのことが途中で起きるのだが、その出産までのジュノの生活を描いた映画である。

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何が近未来的かといえば、アメリカ的な部分である。つまり、制度を柔軟に分化させて、個人の自由を広げようとする創意工夫を考え実行してしまう部分である。アカデミー脚本賞を取ったディアブロ・コディは、「わたしはインディペンデント、つまり自立した状態が好きなのね」と言っている。契約によって、男女が夫婦関係を結ぶように、まったく同様にして、親子関係も契約として、子どもを異なる親の元で育てることが行われる。

ことによったら、それは社会にとってみれば良いことなのかもしれない。今回の映画では、高校生で子育てができないからという理由にはなっているものの、出産を子育てから分化させるという、考えが肯定されている。若い健康な世代に出産させて、豊かな中年世代に子育てをさせる、というのは、社会にとっては、かなり合理的な方法なのかもしれない。

ふつう、ひとりの子どもに対する「出産」と「子育て」は、セットとして一体化されたものとなっていて、勝手に切り離すことは難しい。もし切り離すとしても、それは貧困や病気のためにやむを得ず、里子に出されるのであって、なるべくならば無理をしてでも分離しないようなケアを行うのが、通常の家族制度の場合だ。

映画のなかでも、弁護士は里子の子どもの成長を報告しようかと提案している。実の親ならば、自分の子どもが気になるのが自然である、という家族思想は、この映画のなかでも活用されている。

けれども、里親・里子の合理的な部分は、映画のなかでは、しっぺ返しを受けることになる。里親になるはずだった夫婦が離婚してしまうのだ。もっとも、それでも子育ては行われなければならない、という落ちがつくのだが・・・。この辺が、映画の筋として論理的にはすっきりとしないのだ。けれども、映画的な現実はつねに論理的に動くわけではない。

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Juno_3 「出産映画」であるのだが、赤ちゃんの影が薄いのが、この映画の特徴である。お腹のなかで、超音波に映ったり、蹴ったり手で感じられたりして存在感を出しているものの、やはり現代においては、「赤ちゃん」は透明人間のごとく、きわめて実在感を出すのが難しい人間関係を形成しつつあるな、と感じたしだいである。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。