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2008/06/07

学問の生まれるところ

どのようなときに、学問というものが生まれるのか、については、予想するには難しいものがある。おそらく、中核となるような、思考運動量がとてつもなく大きな人物のもとで、膨大な時間が注がれて、これまでの多くの学問が育ってきたことは間違いないところである。

それは、学問には蓄積が重要で、しかも文脈をはずさない知識の結集を行うには、確固としたセンターが必要であったからである。けれども、放送大学がめざすところは、すこし違うと思われる。この中核となるものが、多元化しているという状況を認識した上での大学活動ではないかと思われる。学習センターなどの、学生のなかにも、このような蓄積を見出そうということだと思われる。

道草をした言い方になってしまったが、きょう神奈川学習センターの同窓会に招かれて、話をすることになったのだが、その後の懇談の席で、学生のなかに着実に「学問の生まれる」要素が育っており、同窓会がその中核として有効な活動を行ってきているのを感じることができた。

きょうのわたしの講演のテーマは、「日本人はいかに情報を受容してきたのか」ということであった。内容は、日本の電信・電話産業の発達を取り上げて、情報受容の問題について考えることにあった。併せて、産業構造変化の理論的検討を行うという、わたしにとってはすこし野心的な試みだった。もっとも、講演というには口幅ったくて、問題提起を行わせていただいた、というところではないかと思われる。

これまでも、過去2回ほどこの場で話をさせてもらって、それぞれ参考意見をいただき、かなりの修正を行ったうえで、論文にまで持っていった覚えがある。この意味では、論文作成にとってたいへん生産的な場だと考えている。

たいへん大きなテーマで、実験的な内容に留まっているにもかかわらず、同窓会の方々には相変わらず熱心に聞いてくださって感謝している。この寛容の精神と、批判精神のバランスが生きている限り、このなかで生まれてくる知識は多いことだろうと思われる。

はっきり言って、今日のところ、学問はどこで生まれるのかといえば、生むほうもさりながら、生まれるほうにも、つまりそれを受けとめる側にも恵まれる必要があるということではないか、と思われる。

そして、そのあとの懇談会のほうにこそ、じつはこの真髄は現れる。先生わからなかったよ、と話しかけてくる内容に耳を傾けることにこそ、値千金のものが含まれている。プラトンの対話編のなかで、思想が生成される過程をみると、いかに聞き役が重要であるのか、ということがわかる。

きょうの電話産業の話のなかで、明治期の電話交換の写真を紹介したのだが、地方の郵便局の中には、電話電信業務が委託されて存在する事例があり、そのような郵便局では昭和30年代に至ってもまだこのシステムが残っていたらしい。実際に働き、電話交換業務を行っていたという学生のかたもいらっしゃって、たいへん参考になった。

また、わたしへのコメントだけでなく、それぞれの学生も、自分のテーマを抱えているので、それらを聞いているとそれだけでも面白いのだ。今日、いくつか聞いた中では、修士論文で輸入の「紅茶缶」について書いた方がいて、その内容が興味深いものだった。なぜ「紅茶缶」というものが発達したのかといえば、物質的には、輸出紅茶の保存のためだが、それだけでなく、缶製造やブランド形成やプリント絵などの文化的な必然性もあるのだそうだ。H先生に推薦状を書いてもらって、ロンドンのビクトリア&アルバート博物館や、スコットランドのグラスゴーにある「リプトン」関連の資料館にまで取材に出かけたそうだ。わたしのコーヒー論にも十分使える題材があることがわかった。

「玄屋」という居酒屋の2階が懇親会の会場になるのだが、和室であるために、歳を召した学生には厳しい。けれども、低い椅子を持ち込んだり、どっこいしょと掛け声をかけて、人々の間を話をして歩いたりしている方々もいて、学問の生まれるところはこのように混沌とした魅力ある場所を必要としているのだ、ということを実感したしだいである。

Hさんをはじめとして、同窓会の顔なじみの方々には、このような機会を作ってくださって感謝している。また、ゼミの卒業生のMさんやRさんも駆けつけてくださったし、Eさんも素敵な着物を召して聴いてくださった。わたしにとっても、「同窓会」に出席したような気分で、ゆったりと話ができたのは仕合せだった。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。