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2008/06/21

講義の返礼

放送大学の講義に対する返礼は、拍手で終わることだ。これが慣例になっている。けれども、このような美風は、現在の大学講義の返礼としては、むしろ異例となってきている。

それでは、一般の大学では、返礼は存在しないのだろうか。ちょっと観察してみると、かならずしも存在しないわけではないことがほのかにわかってきた。

まず、目に見えないものとしては、尊敬や名誉、さらには権威などを、暗黙のうちに与えている場合があるように思える。一般の大学でも、講義で顔を見知った学生と廊下で出会えば、今でも一応、礼をしてくれるだろう。

これらの目に見えない返礼でも、無いよりはましな風習であると思われる。それとなく互酬的に返礼をするのが現代的なのかもしれない。だから、たとえば、講義が終わって、投銭が飛んできたりお札を折りたたんで襟に挿されたりしても困ってしまうだろう。

G.ジンメルの回想やM.ウェーバー『職業としての学問』の有名なくだりに、教授と私講師の違いを書いている部分があって、私講師は大学から給料をもらうのではなく、講義室に集まった受講生から金を受け取るという。つまり、この場合、講義に対して、受け渡される金銭は正式の返礼ということなのだ。

早稲田大学のO先生は、講義を終えたら、「プリン」を渡された、と昨日のブログで書いていらっしゃった。金では身も蓋もないので、プリンというのは感謝を表す意味で、かなり妥当な返礼ではないかと思われる。やはり、給金とは異なる意味での、小さな返礼ということではないだろうか。

わたしの場合、K大学での講義のあと、K大学交響楽団の招待券を2枚いただいた。講義に対して、演奏会というのはかなり等価交換に近くて、お互いの努力を認め合って、実質的な返礼として最適ではないかと思う。

きょうは、その招待のコンサートの日なのだ。学習センターでの仕事を終わらせ、弘明寺駅で妻と待ち合わせ、途中の杉田にあるこってりした味のラーメンで、腹ごしらえをした。

雨がかなり降ってきたにもかかわらず、会場の鎌倉芸術館大ホールは、ほぼ満席だった。幸いにも、1階後方の真ん中の席を確保することができた。曲目は、ムソルグスキー交響詩「禿山の一夜」、グリーグ「ノルウェー舞曲」、そしてベートーヴェン「交響曲第7番」で、指揮者の松岡究氏の弁に寄れば、舞踏というものの聖化を意識したのだということである。

ノルウェー舞曲の民族音楽を思わせる部分は、懐かしい曲想だった。もちろん、第7番には力が入っていたが、若い学生のもつ繊細さやはかなさが一番発揮されたのは、アンコール曲の「カヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲」だった。妻が、ちょうど昼に、映画「ゴッドファーザーPartⅢ」を見ていて、そのなかで使われていて聴いたところだったので、不思議な符牒に驚いていた。

今日最後のコーヒーは、大船駅近くのMコーヒー店にて、アメリカンを注文した。これはほんとうに、最近珍しいほど不味いコーヒーだった。香りもないし味もない。もっとも、不味いコーヒーもなければ、美味しいコーヒーも存在しないわけで、久しぶりに不味さの基準を測ることができたことに感謝しなければならないだろう。妻との会話を楽しんだことで満足することにしよう。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。