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2008/05/06

ポロックのポアリング

絵を描くときに、絵筆を使っているとその描いているところだけに注意が集中してしまう。すると部分的な絵になってしまう。絵筆をキャンバスに触れないで絵を描くことは可能だろうか。キャンバスから離れて、絵の全体と部分との両方を見ながら、書くことはできるだろうか。

連休中には、暇ができるだろうと、妻からビデオを4本借りていた。結局観たのは、そのうちの1本だけだった。俳優エド・ハリスがいいよ、という妻の推薦で観始めたのが、彼が監督も行っている映画「ポロック」2001年(日本では2003年に公開)だった。

これまで、ポロックの絵はあまり注意してみたことがなかったのだが、2年ほど前に倉敷の大原美術館で、一枚のポロックを観てから、面白くなった。

何が面白かといえば、「全体」ということが意識されるからだ、と思っている。抽象画だから、当然対象物それ自体はそもそもあまり関係ない。また、カンディンスキーの抽象画のように、内的必然を持っているわけでもない。

ポロックの絵を観れば、直ちにわかるように、その描き方が独特なのだ。今回知ったのだが、彼の描き方は、ポアリング(pouring)、あるいはドロッピング(dropping)というらしい。といっても、描いているというのか、絵の具をたらしているというのか、そのままを言っているのであって、それはいわゆる技法という大げさなものではない。

と、じつは最初は思っていた。けれども、映画を観ていて、このポアリングを最初に行う場面を見て、ちょっと違うのではないか、と思い始めたのだ。映画の場面では、絵筆で絵を描いていて、絵の具が床に流れ落ちる。それが模様になっていった、ということになっている。(伝記ではどうなっているのか、そのうち確かめたいと思っているのだが、)この映画では、ニュートンの林檎と同じ、偶然説を採用しているということだろう。

もちろん、床に落ちた絵の具から、発想を得たというのは、いかにもありそうで、ポアリングそのものだ。床に絵の具が注がれたのだ。しかし、単なる落ちた絵の具から絵画になるまでには、まだまだ相当な距離がありすぎる。この話はちょっと、眉唾ではないだろうか。

これは単なる想像であり、単なるひとつの解釈にすぎないのだけれど、やはり絵筆で書いていたときとの連続性を考えると、だんだん絵が大きくなってきていて、その大きさを克服する必要性があったと、わたしには思われる。そのときに、全体を観ながら、描く方法が必要になったのだと考えている。

つまり、絵筆を使っていたのでは、キャンバス面から離れることはできない。そこには、ひとつの工夫が必要だ。キャンバス面から離れることなく描き、なおかつ、キャンバス面から離れて観ることが同時に成立する画法が必要なのだ。それが、ポアリングなのだ。キャンバスから離れたところから、絵を描くことができる画法なのだ。

なぜ大原美術館でポロックが好きになったかというと、ポアリングで一筆書きのように描かれる線の連鎖が、あたかも見えない「ネットワーク」を象徴しているかのように見えたからである。必ずしも、1本の線がネットワークの人と人の結びつきを表現しているというわけではないが、そこには重層的な全体が描かれているのだ。

http://www.nga.gov/feature/pollock/lm1024.jpg

このようなネットワークの全体というものは、離れたところからしか見えないようなものだったのではないか、と、まだちょっと言葉は足りないかもしれないが、ほぼ自分では納得してしまったのだ。画法は、環境の要請にしたがって、決定されるのだということである。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。