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2008/05/30

型絵染めの魅力

新横浜から新幹線に乗り、本を読んでちょっと目をやると、もう浜名湖の上を列車がすべっている。レジャーボートのような臨場感はないが、ガラス窓の外は湖であることは間違いない。船が水しぶきを上げて、こちらへ向かってきた。

次に外を見ると、すでに名古屋の駅に入るところで、名鉄の明治村の宣伝が目に付く。最後に目を遠くに泳がせると、姫路城が見えた。ビルの陰にはなってはいるものの、丘の上にちょっと立った白っぽい壁が綺麗だった。

岡山の面接授業は、明日の朝、1次限目から始まるために、今日のうちから岡山に泊り込まなければならないということになった。とはいえ、折角岡山に来たからには、前回時間をあまりとれなかった岡山県立図書館をじっくりと見ておきたい、という心積もりもあって、早めに岡山入りしたのである。

ところが、当初の予定を狂わせる事態が生じた。家で県立美術館を検索していると、「柚木沙弥郎展」を行っているということがわかり、急遽こちらも回ることにしたのだ。

お昼は、県庁通りにある以前も行ったパスタ屋さんでランチを食べる。薄いトマトスープと、ドレッシングの美味しいサラダがついて、メインは「ツナとセロリのパスタ」だった。ツナとセロリの味がこんなに相性が良いものとは思わなかった。最後に、エスプレッソがついた。

Sn3b00164 すこし石山みち沿いに戻り、旭川端に出て、散歩がてら県立美術館に入る。柚木の作品には、(玄関を入って最初の展示物を見るころから、何となく予感があったのだけれども、)これまで何度となく出会ってきていたらしいのだ。目に馴染む形であり、色であった。型絵染めの手法は芹沢銈介から出発したらしく、沖縄模様の型絵が素晴らしい。細かな緻密さが初期の作品では目立った。

独創的な作品を生み出し始めるころから、型絵染めには次第に大きな作品が目立つようになったのではないかと思われる。とは言ってみたものの、じゃ板絵作品や絵本作品はどうなのだ、といわれると、小さな作品も良いなあ、ということになる。

けれども、本筋のところでは、型絵染めの本質である、シンプルな形で、かつ大胆な表現を使うところだけ残していて、それに加えて、自分のなかの良い部分を発展させる才能に恵まれた作家であったことが理解できる。進化という言葉があるならば、このようなことを言うのだという典型例である。伝統を残しつつ、自分にあったところを伸ばしている。

2008okayama 民芸的な伝統を受け継ぎながらも、決してパターン化せずに、大胆さと緻密さをバランスよく使い分けているように感じた。たとえば、ポスターに使われているのは、「萌」という作品なのだが、色使いはほかの赤の色調の大布作品に比べると地味である。けれども、複雑な重層性や交わることのない対照性などを組み合わせて、見ていて飽きることがないのだ。

民芸運動のパターン化された形態というものがあったと思われる。それは、民衆のなかで選ばれて時間効果を通じて生き残ってきたものこそ、「美しい」というかなり保守的な思想で、それはそれなりに出来上がった思想であったと思われる。

けれども、パターン化することで、当初の試みの息吹が失われそうになることもあったのではないだろうかと想像する。柚木の作品をみていると、このパターン化を何とか突破しようとするささやかな挑戦を感じてしまう。

このことについては私見ではあるが、わかりやすい作品として、「ならぶ人」がある。さっと見た限りでは、パターン化されたいくつかの人物類型が、型絵染めされているように見えてしまう。それぞれ家族的な類似を示していて、みな親戚のように見えるほど、それぞれの人物が似通っているのだ。ところが、実際にひとりひとり観察すると、全員が全部異なっているのだ。これは、きわめて現代的な試みであり、稀有なデザインだと思われる。

http://www.samiro.net/works/nuno/image/narabuhito.jpg

正確に観察すればわかるように、14人ずつの型絵がパターンを重ねつつ、その上に重ねる濃い茶色の髪、帽子、シャツの型絵を微妙にずらせることで、このパターン化を破っているのだ。この「ずれ」に意味があるのだと思う。同様のパターン化とパターン破りの趣向は、「型染紬地団縞壁掛布」にも認めることができると思う。

http://www.samiro.net/works/nuno/image/danjima.jpg

実物は写真よりもっと量感がありずっと良い。さらに今回の展示には工夫がされていて、天井から大きくつるされたこれらの大布にさりげなく風を通している。そのため、ゆらりと空気を感ずると同時に、布という軽やかな重さが観覧者に伝わるのだ。たいへん贅沢な見せ方だと思った。

柚木沙弥郎の年譜を見ていたら、かのバンカラがまだ華やかなりしころの松本高等学校を出ている。そして、のちには、わたしも子どものころ母に連れられてよく行った松本の「ちきりや工芸店」で個展も開いていることがわかった。もしかしたら、それで親しみを感じたのかもしれない。すでに、無意識の時代に作品を拝見していたのかもしれない。

Sn3b00183 県立美術館の向かいにある「コーヒー亭」には、酸味の利いたブルマンブレンドがあって、美術館のなかを歩いた後の美味しいひと時を過ごすことができた。

さらに、県庁正面に戻って県立図書館でも、貴重な数時間を過ごすことができた。考えていた資料は必ずしもすべて見つかったわけではないが、相変わらず、明るくて利用しやすい図書館設計に感心したしだいである。

図書館で資料を読んで頭のなかが、一杯になったら、やはりこの張りを覚まさなければならないだろう。ということで、開店から35年が経つという岡山喫茶店の老舗「カフェ・カーネス」(トルコ語でコーヒーの家という意味だそうだ)へ行き、今度はすこし濃い目のブレンドを飲むことになる。これがきょうの最後のコーSn3b00232 ヒーとなった。写真では、窓の外が見えないのだが、旭川にかかる「京橋」に臨んでいて、その上を路面電車が通っていくのが見え、喫茶店として申し分ない場所にある。コーヒーの味も、濃い目があまり好きでないわたしにも美味しいと思わせるものであった。

宵が迫ってきたので、岡山学習センターのS先生とI事務長に落ち会うために、待ち合わせ場所に向かう。岡山出張の出だしは好調だった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。