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2008/05/01

Book Clubという人間関係

連休の谷間に、人と人の関係を取り上げた小品である、映画「ジェイン・オースティンの読書会」を観にいった。ネットで予約してすでに席も決まっていたので、始まるまでゆうゆうであると思っていたが、途中郵便局に寄るやら、娘がコーヒーを買うやら、まごまごしている間に、すでに予告編が始まる時刻になっていた。

暗闇を透かしてみると、満員に近い埋まりようで、かなり盛況であった。予告編のあいだにも、わたしたちのような不心得者がたくさん居て、まだまだ多くの観客が入って来るほどだった。

ジェイン・オースティンが選ばれることだけあって、話の筋になにか重要なことが起こって場面が展開していくわけではない。日常の些細で微妙な人間関係が、映画の中でも描かれていく。ジェイン・オースティンの小説がそうであるように。

オースティンの小説6冊(分別と多感Sense and Sensibility1811年、高慢と偏見Pride and Prejudice1813年、マンスフィールド・パークMansfield Park1814年、 エマEmma1816年、 ノーサンガー僧院Northanger Abbey1817年、 説得Persuasion1818年) が、主人公6人の集まる読書会で6ヶ月かかって読まれていく。その中で、彼らの人間関係で、壊れた関係が静かに修復されて、秩序がふたたび形作られていく。その意味では、きわめて保守的な映画だ。

オースティン作品の半分ぐらいは、イギリス映画で観ている。分別と多感を映画化した「いつか晴れた日に」では、理性的過ぎるはまり役で、エマ・トンプソンが出てきて、印象的だった。今回の映画のなかでは、愛犬に嵌っているジョスリンと、SFおたくのグレッグとの関係が、オースティンの小説的な関係を典型的にあらわしていて、面白かった。それに、超越した生活をしているバーナデットが「神さま」的な位置にいて、運命に逆らわない微妙なバランスを映画のなかで保って読書会の継続性を支えていた。

また、この「読書会」というのが、素敵な設定だった。これは、いわば「弱い絆」をあらわす横の人間関係の典型なのだ。これに対して、親子関係やら、夫婦関係やら、恋人関係やら、レズ関係やら、ペットとの関係やら、縦の「強い絆」関係が絡んでくる。強い関係がうまくいかなくなって、読書会という弱い関係の「強さ」が証明される、という筋書きなのだ。

「読書会」が成り立つ世界は、言葉というものにきわめて信頼性を置く世界だと思う。言葉が現実世界へ影響を与えることを、当たり前のように容認するからである。たとえば、高校教師のプルーディーは、オースティンの小説ルールに準じて、教え子との不倫をとどまるのだ。現実の世界では、なかなかそうは行かない。感性や現実が、理性や言葉の世界を超えてしまう。そこから、数々の問題が生じてくることになるのだ。

この辺の「Sense and Sensibility」が単にオースティン時代の引き回しならば、現代では決して納得されないだろう。このような限界はあるものの、この映画を観ていて、「読書会」という仕組みは、なかなか魅力的に思われた。神奈川学習センターでも、もっとゆとりのある時代があって、10人ぐらいが集まって、読書会が開かれていた時期もあったのだ、ということを思い出した。

この映画のなかでは、読書会は最初にスターバックスで始まる。というわけだからではないが、帰りにラゾーナの丸善にある「M&Cカフェ」ですこし濃い目のコーヒーをいただく。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。