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2008/03/03

夜学と試験終了10分前

映画「アメリカン・ギャングスター」をチネチッタで観る。2時間45分もある映画なので、なかなか時間が合わなかったのだ。今回も、駆けつけるとすでに予告編が終わってしまっていた。

「潜水服と蝶」と二回続いて、偶然にも、男の論理で動く映画だった。もちろん、趣向は違うけれど。観客には、女性客もいらっしゃった。ギャングの世界は、女性にも興味はあるのだろうか。

もっとも、デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウという俳優を観たいというのであれば、これこそ演技が光る映画である。ふたりとも、澱みがなく流暢で、なおかつ慎重で微妙な演技が効いている。

この映画のなかで、ふたりの性格付けはたいへん綿密にできていると思う。監督の編集能力の高さを表している。デンゼル演じるフランクの世界と、ラッセル演じるロバーツの世界の織り成す文脈と、事件の現実世界とを、うまく組み合わせている。地味に人脈を作っていくときに見せる笑顔と、真面目な人生の完成を目指す方向性がはっきりしていた。

とても容認できる世界ではないが、現実の世界で、小さな悪を取り除いたとしても、代わりの小さな悪がはびこって、元の木阿弥になってしまうからと主張して、フランクは自分を自己正当化する。たしかに、この映画の中でも、大きな悪であるマフィアは温存される。

妥協として、攻撃の矛先となるのは悪徳警察官で、その摘発が行われて、映画としての昇華が起こる。社会問題としての解決にはなっていないが、映画の結末としては致し方ないところだろう。

さて、注目したのは、ロバーツ刑事が夜学に通っているから、と言って、同僚をせかせて捜査令状を待たずに、自動車を捜査するシーンである。こんなに日々何が起こるかわからない警察の仕事でありながら、夜学に通うという設定が珍しかった。

米国人の特質のひとつに、自分の信条に忠実に生きるということが当たり前である、と踏んでいるところである。わが道を行くという人間像が描かれている。ロバーツ刑事がその典型だと思われる。

夜学があるから速く済ませたいんだ、というのは、ふつうは禁句だろう。とくに、緊急の捜査などを仕事としている警察官にとっては、公務が大事だということになる。けれども、このような仕事だからこそ、夜学が意味を持つのだと思う。

映画のシーンでも、試験にあと10分です、というときに駆けつける。けれども、自信たっぷりの態度で、時計を外し、答案に取り掛かる。あのようなギリギリの勉強をした人でなければ、自信を持ってペーパーに立ち向かうという昂揚した感情は理解できないだろう。

鳥肌が立つシーンというのは、人それぞれ異なるのだが、わが意を得たりという場面はあるものだ。試験に臨んで、あるいは、論文に臨んで、このようなたっぷりとした態度を取りたいと考えたしだいである。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。