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2008/03/16

喜びの法則

NHKホールで、放送大学の卒業式が行われた。

通信制の大学にとっては、目の前に、大勢の同窓生が現れて、話ができる機会はこの卒業式以外ほとんどない。もちろん、今日のNHKのニュースでも流れたそうだから、クールなメディアを通じた形で、全国において経験が共有できる点では、他の大学では決してできないことを実現していることは間違いないのだが

それでも、目の前に実際に喜びを分かち合う人びとがいるということは、テレビとは違った世界があるのではないだろうか。そして、喜びの法則として比類がないのが、この現実の卒業式だと思われる。喜びは、ひとりより、ふたり、ふたりより大勢という指数法則にしたがっている。

他者の喜びは、自分の喜びである、というところまで言えるのかは別にして、そばで喜んでいる人がいて、さらに、同じ喜びを持っている、という体験は、共に身をもって実感した人にしかわからない感情だと思われる。

自分ではそんなつもりではなくとも、他者の喜びを見て、自分の喜びを実感することは、人生にはときどきあるものだ。それが、儀式ということの社会的存在意義だ。

さらに、写真というものは、このことを強化する。ほんの一瞬の出会いを永遠に残したいという欲望は、ありえないとはわかりつつも、喜びの法則からすれば十分理由のあることである。

渋谷から歩いていくと、ちょうど丘の上にNHKホールがある。昔からある宇田川住宅や、山手教会を左に見て、あとから出来たパルコや東武ホテルを過ぎると、視界が開け、NHKとオリンピックプールが見える。歳がわかってしまうが、小さなNHKホールが日比谷にあるころから、N響の無料コンサートに通っていたものにとっては、このような巨大なホールはむしろ馴染みは薄い。けれども、小さな感情をこれほどまでに集合させれば、別の趣向が現れる。

玄関でさっそく修士修了生の方に呼び止められる。神奈川学習センター所属のかたで、着物がたいへん似合っていた。何人かの方が集まってきて、写真に収まる。玄関ホールでは、Hゼミの方々と、Sゼミの方々がやはり集まっていて、ここでもパチリと一枚、他の学生に撮ってもらった。

喜びを共有する方法として、写真は有効なコミュニケーション用具である。写真の技術論は多く存在するが、なぜみんなで写真を撮るのかということについてはもうすこし興味深い視点がありうると思う。

写真とは、人間にとって、「身振りの復活」である、といったのは、有名なマクルーハンである。身振り手振りを通じて、他者の喜びが通じられ、自分の喜びになっていくのだ。

さて、懇親会は席を移して、ニューオータニ「鶴の間」で行われた。同窓会の会長がこの鶴のガラス工芸で、この部屋の製作にかかわっていた、というエピソードを披露なさっていたが、放送大学らしいエピソードだと思った。

第1期生のMさんが初めて卒業なさったと、挨拶に見えられた。ということは、23年かけて卒業なさったことになる。当時、わたしの学習相談を受けられたらしいが、さすがにわたしの記憶にはない。たぶん、姿も相当変わったのだと思われる。でもかすかに、話す口調に記憶が残っていたことには、こちらがびっくりしたくらいだ。10年、20年は、この大学では現在進行形なのだ。つまり、こうなると、努力とは何か、ということを、すごい時間スパンで考えなければならないことを教えている。

同窓会のお手伝いに来ていた、Iさんについては、過去に書いた卒業論文の中身まで覚えている。文脈で覚えているのだが、その後についても話がすっかりつながっていることに気づく。

会場からの別れ際に、小走りに追ってきて、お帰りですか、と声をかけてくださった方もいる。おそらく、じっくり話をするほどではないにしても、授業の印象が残っていて、挨拶に見えたのであろう。

写真に封じ込められ、倍加した喜びは、今後どの方向へ飛んでいくのだろう。当分は、メールに乗って、再生産され、人びとの記憶へ影響を与え、実際の卒業式よりも、写真の卒業式が定着していくことは間違いないだろう。そして、いずれは、個人のなかで、それぞれ異なる方向への作用を与えることになるのだ。つぎに、再会するときに、それを読み取るのを楽しみにしたい。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。