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2008/02/20

女性というものの分岐

昨日の「潜水服と蝶」の興奮が夜中まで続いて醒めなかった。肝心なことを忘れているようで、朝になってそうなのか、と思った。もちろん、「E,S,A,R,・・・」という記号の羅列は耳から離れない。けれども、もうひとつ、たくさん出演していた女性について思い当たった。

女性というものがどのようにして現れるのか、ということだと言い換えても良い。ふつうは、あらゆる女性が混然一体となっていて、たとえば「妻」という形で、まとめて現れる。それ以上は、求めない。

けれども、可能性としてみれば、女性はさまざまな形をとって、目の前に現れる。それらを、分節させてみて、ひとつずつ見せてくれているのが、「潜水服と蝶」である。

たとえば、ジャン=ドーの妻セリーヌは「現実界」であり、恋人・愛人のジョセフィーヌ、イネスは「想像界」、そして、言語療法士のアンリエットと編集者のクロードは「象徴界」なのである。これらは、対立を見せて分節しているにもかかわらず、最終的には見事な統合を見せている。

ふつうは、これらの役割すべてを、妻が引き受けている。けれども、ジャン=ドーのような、特殊な事情が生じたときに、分岐して現れ、それぞれが分業を始めだすのである。

面白かったのは、妻セリーヌが病室にいるときに、愛人からの電話を取ってしまう場面だった。ふつうは、これでジャン=ドーはどちらかのコミュニケーションの選択を迫られる。たとえば、愛人との会話を選択すれば、妻とのコミュニケーションは断絶する。けれども、この場合、彼は電話を通じて話を通じることができないため、結局はセリーヌが途中を媒介して、「E,S,A,R,・・・」とはじめなければならない。本来、断絶が起こるはずの場面なのだが、ジャン=ドーの場合には、妻は泣く泣く媒介しなければならない、というたいへん興味深い現象が起こるのだ。

これら三者の役柄は、たいへんわかりやすいのだが、ちょっと理解できなかったのは、理学療法士マリーと、友人のローランの演じている役の位置づけである。あえて、この三つの世界に位置づけるならば、この二人も「象徴界」ということになるかもしれないが、ちょっとずれているように思える。

どのような「ずれ」かというと、マリーの場合には、ジャン=ドーの身体活動に関わっていて、「現実界」へも橋渡ししている。ローランはといえば、本を読んでやったりして、「想像界」に首を突っ込んでいる。

このように考えると、わたしの周りには、どのような「女性」がどのように現れてきているのかを、この映画は分けて明らかにしてくれているのだ。これまで、どうも女性というものがわからないと思っていたが、このように「一覧表」にして見せられると、なるほどと納得してしまう。

昨日のことを思い出すと、この映画はほんとうに絢爛豪華な「女性」の一覧表であったと再認識したのだった。

つまり、あらゆる男性の周りには、少なくとも三人の女性がいるのだ。ということは、もっと一般化するならば、あらゆる人間の周りには、三人の他者がいるのだ。そして、その中の一人が、「E,S,A,R,・・・」とやってくれることで、ようやくその人は他の二人との関係も繋ぐことができるのだ。

女性にとっては、男性はどのように現れるのだろうか。つまり、「E,S,A,R,・・・」と言ってあげる世界は存在するのか。

さて、肝心の「E,S,A,R,・・・」の真の意味が知りたければ、今すぐ映画館へ走れ!

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。