« 金沢の寄せ鍋 | トップページ | マリーナ・キャンパス »

2008/02/01

金沢の変わり様

金沢をふるさととする室生犀星は、1932年に次のように書いている。

「私も以前はこの町の人の活気のないことに愛想を尽かしていたものですが、いまでは、この町はこの町の精神だけで生きて行かれることを知ってから、かういふ珍しい自営自得の国宝的な美しい町もあってもいいと考へるようになって来たのです。だから文明とか発展とかの必要はなく、このまま、そっくり何百年でも持つだけ持って行った方が美事なやうな気がしてくるのです。これは都会的な骨董品であってそっとしてをくべきものではないでせうか。」 

この町の特色は、古さをふつうのことと考えるところにあり、つまり「骨董品的」都会である点にある。職人のまちという印象が強い。この文章の室生犀星も、それから泉鏡花もその職人的伝統を受け継いでいて、文章の凝りかたが独特である。

ところがである。今回訪れてみると、まず何ということであろうか。この町のシンボルである「近江町市場」が壊されて、新しいビルが建設されつつあるのだ。1昨年、金沢に来たときには、そのような再開発のことはまったく知らなかった。

さらに残念だったのは、以前来たときにたっぷりとした時間を過した、古い建物のまま残されていた喫茶店「ぼたん」までも姿を消してしまったことである。こちらは跡形もなく、コンビニに変身していた。街全体が浅薄になったようだった。

Photo 朝、金沢駅前のホテルで目を覚ますと、雪が降っていた。やはりこれでなくちゃ、金沢の雰囲気は出ないな。雪が新しさを隠してくれる。とはいうものの、今日一日取材に歩くことに決めていたので、急遽予定の半分を諦めて、とりあえず時間を考えると、訪ねることの難しいところに足を伸ばすことにした。

駅前からバスに揺られて、小1時間のところに、湯涌温泉というところがあって、そこに竹久夢二の美術館がある。岡山と東京には、夢二美術館はあることは知っていたが、金沢にあるというのは、こちらへ着てから知った。

Dsc03040途中、雪国らしい風景がつぎからつぎへ現れて消えていく。とくに木立に乗った小雪がさらさらと連鎖反応を繰り返して、降りていく流暢さは、雪が流動体であることを思い出させてくれる。

この夢二美術館には、大正時代の雰囲気が凝縮されていて、戦間期の文化状況を知るには逃すことはできない。もちろん、夢二が当時の少女たちのこころを掴んだ特殊な事情もあるが、それ以上に、時代の求めた民衆文化の諸相を色濃く持っている。

今回の展覧会は、「たまき」「彦乃」「お葉」という3人の女性にまつわる恋を題材としたものだった。有名な宵待ち草も、この館所蔵の絵である。「まてど暮らせど来ぬ人を、宵待草のやるせなさ、こよいは月もでぬさうな」大正時代の記憶と言えば、このメロディーが出てきてしまうほどだ。

さて、注目したのは、たまきが経営した「港屋」である。109などを覗けば、少女好みの雑貨屋が所狭しと並んでいるが、これが現代的であるというわけではない。港屋はすでに1914年、日本橋呉服町に「港屋絵草紙店」として開業されていて、千代紙やカードで評判を取っていた。たまきの開業のあいさつ文がとてもよいと思う。

「下街の歩道にも秋がまいりました。
港屋は、いきな木版画やかあいい石版画や、カードや、絵本や、詩集や、
その他の日本の娘さんたちに向きそうな絵日傘や、人形や、千代紙や、半襟なぞを
商う店でございます。
女手ひとつでする仕事ゆえ不行届がちながら、
街が片影になりましたら、お散歩かたがたお遊びにいらしてくださいまし。 

吉日外濠呉服橋詰 港屋事 岸たまき」

一方において、複製文化の到来に対して、積極的に取り入れようとする先進的な姿勢が目立つ。他方において、ビジネスが体勢となった日本社会に対して、「片影」になったら、つまりアフターファイブの余暇文化を喧伝しようとする姿勢も顕著であった。

Cake 収穫多い金沢での最後のコーヒーは、市内へ戻って、評判高い21世紀美術館のカフェテラスで、チーズケーキと一緒にいただく。

« 金沢の寄せ鍋 | トップページ | マリーナ・キャンパス »

風景と風土」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/173786/17925508

この記事へのトラックバック一覧です: 金沢の変わり様:

» 落穂ひろい(17)最近のアート事情 [国際芸術見本市(ジャパン・アート・フェスティバル)始末記]
今日ほど美術館が一般大衆に親しまれた時代はかつてなかっただろう。詳細な統計的数 [続きを読む]

« 金沢の寄せ鍋 | トップページ | マリーナ・キャンパス »

社会経営研究配布中

  • 2015study

社会経営ジャーナル配布中

  • 2015journal

開いている講義    「社会的協力論」

  • cooperation

「音を追究する」第13回・第14回

  • art

「多様なキャリアを考える」第2回・第3回・第4回

  • cooperation

「グローバル化と私たちの社会」第11回

  • cooperation
2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

Recommend

プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。