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2007/11/30

エディット・ピアフの生きかた

放送大学の東京連絡所で、国立印刷局の方がたと会って、ここ数年来進めてきている「印刷教材の検索システム」の相談を行う。これまでは、研究用に使うだけで、ほかには小数の学生のかたに、見ていただいたぐらいで、何とももったいない状態だった。

他の大学と放送大学との違いのひとつは、自前の教科書を持っていることだ。これらの科目を横断的に勉強できるような教科書の使い方を実現したいと考えている。来年には、たとえ部分的であっても良いから、著作権処理をうまく乗り越えて、ぜひインターネット経由で使えるように目指したい。

担当の方がたの整理がたいへん手際よかったので、相談もトントン進み、思ったよりもはやく終えることができた。

071130_150001 虎ノ門から日比谷の映画館街へは、とちゅう紅葉の映える、日比谷公園を斜めに突き抜ければすぐである。もう少しで、一斉に葉が落ちてしまうばかりのイチョウ並木が、雨に濡れて黄色に光っていた。

さて、エディット・ピアフの曲に初めて遭遇したのは、高校時代だ。音楽の時間に、全員が独唱をして、試験の代わりにしようと先生が提案した。友人のS君が「愛の讃歌」をフランス語で挑戦する、と言い出した。曲を聞いているうちに、好きになり、わたしも、それじゃ英語で挑戦する、ということになった。

音楽のクラスには才媛が犇いていて、後に大学のオーケストラで活躍したKさんや、スタンフォード大の先生になったMさんや、デューラー趣味のHさんたち女性軍が圧倒的優勢を保っていた。そんななかで、先生のピアノ伴奏で、気持ちよく歌いぬいて、自慢するわけではないが、目出度く優をいただいた。そんな曲の思い出がある。

映画「エディット・ピアフ」の会場に入る。いつものように、前から5番目のE列の真ん中に座ると、敵もさるもの、D列とC列の真ん中にもそれぞれひとつ置きにふたり座っているではないか。それも明らかにすでに60歳、70歳を超えている男性たちだった。ピアフのファンだった方だろうか。これまで、わたしの行くところ女性が90%を誇っていたのだが、今回ばかりは、男性優勢なのだ。

「それ」については、あまりの年月で、忘れかけていたのだが、それを思い出し記憶が蘇ってきたのはいつのころだろうか。

もし「それ」がないならば、ピアフを演じていられないと言わしめるほどの「それ」とはなにか。人生の最後に、もう何も後悔しない、と言いつつ、生きたいという。

  いいえ、私は何も後悔しない
  私に人がしたよいことも悪いことも
  何もかも、私にとってはどうでもよい
  私のいろいろな過去を束にして
  火をつけて焼いてしまった
  永遠に清算してしまった
  私はまたゼロから出発する

生い立ちが何であろうと、育ったところがどこであろうと、ピアフは生きた。大道芸のなか、父に何かをやれ、と言われて、歌いはじめた。ステージで歌うということが、ピアフにとって重要なことで、そのために集中することだけに人生が費やされた。だからこそ、「それ」がいつもピアフのもとに現れたのだと思われる。

ときには、神の形をしていたり、恋人の形をしていたり、指導する人の形をしていたりした。そのたびごとに、「それ」に思い入れをした。舞台で倒れてからも、「それ」を見つけ復活した。

  パダン、パダン、パダン
  それはわたしを追いかけてくる
  パダン、パダン、パダン
  <覚えているか>とこずかれる

という一節が聞こえてきたときには、不覚にも涙を流してしまった。
わたしにも、まだ「それ」を感ずる余地があったのか。「青空が降ってくるかもしれない。地球が転げ落ちてくるかもしれない。でも、大したことじゃない・・・」と歌った高校時代を思い出してしまった。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。