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2007/10/26

プロポーザルの先

日常生活に言いっぱなしがあるごとく、すこし長期にも、プロポーザルという、先のことはとりあえず考えないで提案だけ行ってみる、という生活習慣がある。

お恥ずかしい限りだが、じつはこのプロポーザルを書くことが好きだ。考えていると限りがなく、空の彼方まで飛んでいけそうになってしまう。けれども、すでに地の果てという空間的な冒険が不可能になってしまった現代人にとっては、プロポーザルは必要不可欠の冒険のひとつになっているのではないかと思う。

夕べも、科学研究費の申請を書いていた。他の人を巻き込んでいるので、そんなに無責任なことはかけないが、それでも飛翔してしまう、悪い癖がある。

そのなかで、通称「エフォート」と呼ばれる欄があって、自分の仕事全体のなかで、今回の研究にどのくらいの比重を持たせるのかを問う欄がある。

客観的にみて、真剣に取り組む人に科学研究費を配ろうということで、エフォートの低い人は排除したいという趣旨だろう。それは競争的な政策ではかなり合理的な考え方だが、みんな正直に答えるかどうかは分からない。

つまり、明らかに、プロポーザル一般について言えることは、提案の時には、とりあえず一生懸命なんだが、いざじっさいに研究を行うのは、成り難し、というところだろう。けれども、どのくらい真剣なのかが、そのときプロポーザル作成に問われるということ自体が、重要なのだと思われる。

昨日も、徹夜した。これほどまでして、研究を増やし、毎日がまたこれで忙しくなるなあ、と考えつつ、またまた没頭してしまった。もちろん、最近はかなり競争率が高くなって、4人か5人にひとりだから、あまり期待しても仕方がないのだが。

さらに、お恥ずかしいことだが、科学研究費ではないけれど、じつは今年になってから、大きなものでもプロポーザルを5つ以上を書いた。それぞれひとつの小さな論文ほどの長さがあり、やはり夕べと同じように、最後は徹夜になってしまう。

この5つのプロポーザルの活動主体は、じっさいには、わたしではない、というところがプロポーザルらしいところだ。まったくわたしと関係ないわけではないが、それでも、ほぼ「言いっぱなし状態」が保証されていたものばかりが、この期間に集中した。

金銭が絡んでくるとたいへんなのだが、プロポーザルを書くほうにとっては、そんな事はお構いなしで、夢みたいだと自分でも思える事を空想してしまえることが恐ろしいところだ。そのなかのひとつは、もし実現していたら、数十億円が必要であったのだが、選んだ人が懸命だったのか、それとも、二の足を踏んだのか分からないが、当然とはいえ採用されなかった。

さて、経済学者のシュムペーターは、ヴィジョンということを重視したことで、有名である。この場合、単なる夢物語ではなく、むしろ活動の前には、このようなイメージによる戦略が必要であることを説いていて、極めて説得的な考えだと思われる。

プロポーザルは、明らかにヴィジョンとは異なっていて、かなりロマン的な雰囲気を持つ言葉だ。それは、結婚の申し出のときに使われる言葉であることからも分かる。けれども、そればかりでなく、やはり将来というものがロマン的な存在であるからだろう。

プロポーザルを専門に書く立場から見ると、このような提案に対して、これを受ける立場の人びとがどのような反応を見せるのか、というのは、たいへん楽しみである。

なかには、感性に鋭い方がたがいて、たいへん勉強させられる。先日起こった事は、おもわず、これはしたり、と膝を打ちたくなってしまったほどだ。

先日、わたしの関係したプロポーザルが、問題になった。わたしはあることを中心にして書き込んでいたのだが、どういうわけか、じっさいの提案ではその中心が抜かれてしまっていた。

ところが、その抜かれたために、論理がおかしくなっていることに、目ざとく反応なさった方がいて、さすがだな、と感じた次第である。その方は、まったく抜かれて出てきたという事実はご存じないはずである。世の中には、思った以上に目利きという方がたが存在するのを、目の当たりにした。

これだから、プロポーザル書きはとうぶん止められそうにない。「プロポーザルの先」については、書く立場のほうがよく見えるのか、それとも、それを受ける立場のほうがよく見えるのか、それはそのときの風だけが知っている。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。