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2007/10/17

30秒の言葉

今回「インターネット配信」実験ということを隣のNIMEと共同で行っている。それで、30秒の言葉で、実験の意義を言ってください、という放送大学の広報番組「大学の窓」からの依頼があった。

世の中には、10秒であっても、ピリッとした言葉を発して、人のこころをつかんでしまう名人がいる。けれども、どうもわたしは、短い言葉が苦手らしい。

じつは、この30秒というのが、曲者であった。2分ならば、言いたいことに余裕を持たせることができるし、多少間違えたり言葉が足りなかったりしても、言い直しができる。ところが、30秒というのは、せいぜい3センテンスか4センテンス(これを文章といったら、文じゃないですか、とAさんから指摘があったので、今回はセンテンスにしておきたい)しかしゃべることができない。

という言い訳は、いくらでも出来るが、じっさい、附属図書館へ行き、先日も朗読で世話になったFさんから質問を受け、いざしゃべろうとすると、うまくいかない。このような訓練を受けていない、わたしのような者には、30秒でというのはそもそも無理なことなのだ。二、三日で外国語をしゃべりなさい、というのに似ている。

ようやく、自分で書いたものをSディレクターから見せていただいて、最初の状態を思い出したら、うまくいった。けれども、どうみても、5回も失敗しなければ、通常のしゃべりの状態を回復できないことからみると、すくなくともアナウンサーには向いていなのは確かだ。

やはり、Fさんのようなプロを前にしてしゃべろうとして、無理をしたらしい。よく考えてみると、自分のしゃべり方の特徴がここには現れていると思われた。

ストレートで直接的な言葉を好むタイプと、間接的で周り廻った言葉を好むタイプと、ふたつあるとしたら、わたしは明らかに後者だ。

なぜ後者になるのかといえば、それは簡単で、いつも複数の可能性をつねに考えようという性分があるのだということだ。いつも行っていることだが、しゃべりながら、この複数の可能性のなかから、ひとつ選んで、実際に伝える言葉としている。30秒にそれを込めろ、と言われた途端に、この可能性の全部は入らなくなってしまうのだ。

たとえば、30秒の言葉には、日常用語でよく反対の言葉をいれて強調することを行うが、それが出来ない。「~ではなくて、~です」という言い方は、30秒には入らないので、「~は~です」ということになる場合が多い。

このとき、おそらくなのだが、潜在的に言葉の同一性障害を起こしているのだと思われる。瞬間的に、その単一に選ばれた言葉を拒否してしまうのだ。

先日、ベテランのアナウンサーの人が、対談を行っていて、若いときに言葉の最初の音を出すことができなくなる、という障害をもった、という話をしていた。

わたしの場合は、それほど大事ではないとしても、発音を拒否するというほど深刻なものではなく、単に30秒で言葉を収めることができない、ということだけなのだが、深刻に考えれば、いろいろな理由をつけることが出来そうだ。けれども、うまく言えなかったことを、こんなに楽しんでしまい、反省して直そうとしないのは、やはりテレビ向きではないということかもしれない。

帰りの玄関を出たところで、英国の社会史がご専門のK先生と一緒になった。ちょうど帰り道だ、とおっしゃって、幕張から品川まで車に乗せてくださった。

途中、ケンブリッジでの大学生活の話をお聞きすることが出来た。とくに、チュートリアルという一対一方式のカレッジ生活は、複雑な人間というものの教育にはかなり有効であるという印象を覚えた。30秒の言葉も重要だが、一日かけて議論する言葉も、同じく重要だ、と感じた次第である。

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プロフィール

  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。