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2007/09/27

今泉今右衛門展

有田磁器の今右衛門展の案内状が届いていて、その表紙に数年前までとちがう意匠が載っていて興味を覚えた。

焼き物については、これまで素人を省みず、各地のものを見せていただいている。産業としてみても、たいへん興味深く、経済学の特別な対象であると考えている。

5年前に、放送大学の授業ビデオを撮るために、有田焼の磁器製作現場を訪れたいという希望を出したら、今泉今右衛門窯を紹介してくださった。

そのときに、「職人の労働」について、14代今右衛門氏と対談させていただき、授業のなかに取り込ませていただいた。「熟練」や「分業」ということについて、具体的なものを取り上げて、わかりやすい説明をしていただいた。

http://nime-glad.nime.ac.jp/semp/u-air/wm.asx?3u-air%2fspecial_subject%2findustrial_society_03%2f03+1091

当時、14代を襲名したばかりで、ご自分の作家としての方向性を探っていて、「墨はじき」という江戸時代の技法を現代に復活させる作品を作り始めていた。ビデオのなかにも、ちらっと写っている。

日本橋三越で開かれた展示会には、ちょうど今右衛門さんがいらっしゃっていて、立ち話だったが、今回の企画についてのお話を伺うことができた。

そのとき感じたのは、次の点である。第一に、5年前にも感じたことだが、「対話能力」をさらに有効に使っているな、という印象である。もちろん、これまでも説明能力の高さは、講演やエッセイなどで示されているが、それ以上に、職人の方がたのなかに、機会あるごとに入っていって、対話を通じて、作品を作り出すという姿勢を、以前にも増して徹底させている、と感じた。

窯元のすべての職人の心を掌握することは難しいかもしれないが、かなりの部分をすでに掴みつつあるという自信を感じた。ご本人は「作っている」という態度ではなく、「作らされて」いることを強調なさっていた。

第二に、「墨はじき」技法の新展開があって、見ていて楽しかった。なぜすでに埋もれてしまった江戸時代の技法を現代に復活するのか。その理由の一端を知ることができた。

http://www.imaemon.co.jp/ironabeshima/

グラフィック・デザインの世界でグラデーションという技法が、今日常識的に使われている。今回の展示では、一見すると、「墨はじき」はグラデーションの一種であると考えられてしまう可能性がある。

ところが、実際に見ると、グラデーションとは似て非なるものであることがわかる。その効果はまったく違うのだ。墨はじきは、印象派の使う「点描」に近いのではないかと思われる。つまり、点の集合として、色彩の穏やかな転換が行われているのである。点の寄せ集めだけに、グラデーションのように機能的でなく、むらがあるかのようなリアルなグラデーションが実現されているのだ。

第三には、模様の革新を図っているようだった。伝統的な模様を使っているものと、雪花の幾何学模様で西洋風を出しているものと、ふたつの方向性を探っているように感じた。このように、方向性を積極的に打ち出していくことは、今後の発展に対して、たいへん重要なことだと思われた。

今右衛門窯という組織を背負いながら、個人作家としての創造も世に問わねばならない、というのは、たいへん困難な道だと思われる。けれども、これらをこなすことを運命付けられているのが、伝統というものの力だと思われた。「墨はじき」の可能性に注目したいと考えたしだいである。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。