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2007/06/12

健康の神秘

母の入院生活を看ていて、ときどき驚くことがある。

骨折には、薬も治療もいらないのだそうだ。ただただ、安静を保つことが重要なのだと、医師の先生はおっしゃる。何も診てくれないのですか、と最初は半信半疑の状態だった。

ところが、昨日まで食欲がないといっていたのが、今日からはお粥を全部食べてしまったり、今日まで痛いと言っていたのに、ちょっと立ってみようと言うと、実際に立つことできてしまったり、寝たきりが続いていたのに、明日からはリハビリで歩いてみましょうといわれたりして、健康をどんどん回復している。

わたしたちの当たり前の日常では、健康は隠されていて見えないのだが、病気になってはじめて、突然目の前に現れて、すべて見えるようになるのだ。

健康とは一体なんなのだろうか。このような回復が、健康ということなのだろうか。ただ安静にしているだけで、自然に体力が満ちてくるという感じがもっとも実感に近い健康というものかもしれない。

図書館を渉猟していたら、ドイツの哲学者ガダマーの健康論を見つけた。「健康を平衡状態と考えてみることは、最も理解しやすいことである。平衡は重力がたがいに相殺された無重力のような状態である。平衡の障害は反対重力によって取り除くことができる。しかし、障害を反対重力によって相殺しようとする試みは、また新たな平衡の喪失を引き起こす危険性がある。ここで初めて自転車に乗ったときのことを想い出せば良いだろう。一方に傾いたとき、進行方向を正しく修正するために、どんなに力を入れてハンドルを切っても、またすぐにもう一方に傾いてしまうのである。」

というように、あきらかに「安静」という自然の治癒方法を、ガダマーは支持している。薬をあれこれ使用しても、平衡を乱してしまっては、病気をぶり返してしまうだろう。

まさに、「健康とは、生のリズムであり、つねに平衡が保たれている恒常的なプロセスである。われわれはみなそれを知っている。それは呼吸であり、代謝であり、睡眠である。こうしたリズム的現象の三拍子が生命力、気分転換、そしてエネルギーの回復に役立っている。」

母の病院は海辺に建っている。けれども、ずっと寝たきり状態が続いていた。入院して初めて海をみた、という歩行器使用の段階に達したときには、母の健康はすでに日常に隠された「神秘的」な状態に戻っていた。

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  • 坂井素思
    放送大学教員で、社会経済学領域を研究しています。